第6話 転換

GBU-24


レーザー誘導爆弾、ペイブウェイの第三世代、ペイブウェイⅢのうちの一つである。レーザー照射によって、狙った場所へ精密爆撃を叩き込むペイブウェイ・ファミリー。その中でもGBU-24は2000ポンド約907kgという重量級の爆弾であり、その威力は着弾位置から数メートル離れたT-90M主力戦車を簡単に破壊できるほどだ。


『命中です! 大爆発ですよ!』

「了解。1分後に、もう一発ぶち込む」


タイマーを見る。大体あと30秒ほどで投下だ。ライトニング照準ポッドを通じてHUDヘッドアップディスプレイに映し出される赤外線映像を見ながら、照準を合わせ、投下する。


『命中です! さすがお嬢様です!』

「ありがと。それじゃ、帰還する」


残り燃料は既に10%を切っている。降下旋回して着陸体制に入るときには既に空っぽになっているだろう。


「MISSION・・・COMPLETE・・・」


小さくそう呟いた。


――――――


「お疲れ様です。お見事でした」

「ありがとうライザ。じゃ、戻ろうか」

「はい」


帰還後、ライザの出迎えを受け、街の方へ向かう。途中使用人達と合流しながら、完全に燃えきった屋敷の前まで移動した。


「・・・はあ。疲れた」

「全て終わりましたからね。お疲れ様でした」

「何言ってるの? まだ始まったばかりだよ」


精一杯のほほえみを見せつつ、マナに話す。言葉の話を理解した彼女が優しく私のことを抱きしめてくれた。


「本当に、お疲れ様でした」


私は、肩を震わして泣いていた。

――――――


それから数月、何事も起こることはなかった。一度は尊属殺を疑われたものの、領民や使用人たちの証言があり、話は美談で終わったのだ。


突如、屋敷は炎龍の襲撃を受けた。伯爵と子息は率先して戦い戦死、夫人と上の令嬢は使用人の避難をしていたため、逃げ遅れた一部の使用人とともに炎に巻かれて死亡。魔法の練習のため、屋敷を出ていた下の令嬢が魔法を使って炎龍を追い払ったため、街への被害はなかった。


そんな体の良い話へと。近頃炎龍の発見報告も各領で度々見られていたため、我が家は哀れな被害者程度で片付けられた。


「はあ、それにしても疲れた」

「ここ二月ほど、まともな休みはなかったですものね。お疲れ様です」


この封建社会は女が家督を継ぐことは出来ない。本当なら取り潰しとなるところだが、今回は状況が状況のために取り潰しとはならず、私が領主代理となり、次の領主候補の誕生まで領の経営をすることになった。早速私は財政の見直し、産業の立て直し、政治の改革に着手した。あまりに急進的だったため、一時は財源圧迫で破産しそうにもなったものの、半月もすれば健全な運営ができるようになり、領内の循環も上手くいくようになった。

 そして、今日、二月ぶりにすべての仕事がなくなった。


「まずはお風呂」

「既に沸いておりますよ」

「すぐ入る」


新築の屋敷。一階の執務室を飛び出し、そのままお風呂場へと直行する私だった。


――――――


「報告があります」

「話せ」

「レヴィアン伯爵家の件ですが、次女ローザの政策により、自滅は見込めそうになくなりました」

「そうか・・・もう下がって良い」


男は大層不機嫌だった。理由としては自身が組み立てたシナリオにある、伯爵領での反乱が起きなかったからだ。伯爵家の主要な人物が死んだのは大きかったが、一番面倒な存在・・・神を信奉し、信者を世界各国に持つことで国を成り立たせている教皇国から見た無神論者・・・であるローザが死んでない上に民との関わりを深くしたのは男にとって最も良くない展開だった。


「ローザ・リズライト・レヴィアン! 儂の出世を尽く邪魔しおって!」


そんな悪態をつく男は自分が何を敵に回しているか知る由もない。今踏んでいるのが、空腹になった獅子の尾であることを。

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