第4話 フルカスタム

「おい、懲りずに来たのか」

「そうよ! また税金をあげるって聞いたのだけど!?」


街の中心部。飛んできた声は、ご尤もとしか言いようがない。


「大丈夫です。税金は上げません。今日はそのことについての話です」


私の周りに人が集まってくる。耳につけたインカムを通してマナの声が聞こえる。伯爵家の者たちは動きを起こしているわけではないようだ。


「・・・まず、最初に謝らせてください。昨日街を通り過ぎた鉄の矢は私が原因です。迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした」

「あ、あれが!? もし街に落ちてたらどうなってたと」

「それは大丈夫です。あの鉄の矢は言うなればワイバーンと同じようなもの、中で人が操縦できます。あのときは私が操縦してました」

「そ、そうか・・・まあ、その事はもう良いとして、俺達が知りたいのは今後どうなるかってことだ」


ついにその質問が飛んでくる。ここでの答えで、私の今から数瞬の運命が決まるのだ。


「昨日の夜、父が増税を決めたのはご存知だと思います。しかし、増税ばかりでは領地は回らない。領民は不満を持ち、他領へ流出、酷ければ反乱なんてこと、ザラにあると、私はわかっているつもりです」

「・・・」

「本当は私のことなんて信用ならないのは、重々承知です。今まで散々苦しめてきた伯爵家、その末裔なのですから。犯されようが殺されようが、みなさんが被ってきた苦しみよりかは遥かに軽い」

「・・・」

「なので1度だけ、たった1度だけでいいです。私に機会を下さい。私が、家族を始末し、この領の腐った経営を立て直します」


私の前に集まる人々の顔は、酷く苦々しいものだった。


「・・・もし、機会を果たせなかったらどうするのじゃ?」

「・・・元よりこの身を投げ出すつもりです。誰かの奴隷にするもよし、魔女として火炙りにするもよし、大罪人として晒し首にするもよし。すべて領民である皆さんが決めたことに従います」

「そうか・・・俺は託してみるのも悪くはないと思うが、ほかはどうだ?」


筋肉質な男の問いかけに、周りが賛同の声を上げ始める。私はそこでホッと深く息をついた。


「明日の正午、私が鉄の矢を使って屋敷ごと吹き飛ばします。健全な使用人たちは事前に避難するので、その人たちが万が一に周囲に溶け込めるよう、サポートしてあげて下さい。伯爵家の人間が助けを求めてきた場合はそのまま無視してもらっても構いませんが、もしかしたらリングフローズ侯爵家のご令嬢が逃げてくるかもしれません。その方達は保護していただけると助かります。何なのかと聞かれた場合は『鉄の矢が降ってきた』とごまかしを入れて下さい。後で私がそれとなくそれっぽい説明でごまかします」

「・・・わかった。他のみんなも、それでいいな!?」

「「「おー!」」」

「・・・ご協力、感謝します・・・」


深々と頭を提げると、周りの人たちもぞろぞろと帰ってゆく。・・・どうやら、関所は突破したようだと安堵のため息を漏らした。


―――――


「ごめんマナ! これ運ぶの手伝って!」

「了解です」


ところ変わって荒れ地。マナとライザの3人でグリペンへの武装取り付けをやっていた。今回は失敗が許されないため、徹底に徹底を重ねて、一撃で屋敷ごと破壊する必要があった。そのために完全な武装を施す。

長時間高高度に滞在する時、野生の炎竜から身を守るため、左右翼端のステーションにはRb98空対空ミサイルを装備。荷重許容量が少ない左右翼下外側のステーションにはGBU-12ペイブウェイⅡレーザー誘導爆弾、許容量が多い左右翼下内側のステーションにはGBU-24ペイブウェイⅢレーザー誘導爆弾。グリペンのE、F型にある胴体下2箇所のステーションには念には念を入れGBU-12を追加装備、合計6発の爆弾と2発の空対空ミサイルを持って長時間対空するため必須になる増槽を胴体下部中央のステーションへ、正確に照準するためにAN/AAQ-28ライトニング照準器を照準器用のステーションに装備する。

グリペンE型に存在する合計10箇所のハードポイントをすべて使用する、フルカスタム仕様になった。

ちなみに、エルベルトは制空任務ばかりだったため、持てる8発の追加武装は、短距離用Rb98を4本と、中遠距離用のAIM-120AMRAAM(Rb99)空対空ミサイルを4本という、かなり軽量の装備だった。


「・・・こんなに重いの2000ポンド(約1t)するペイブウェイⅢ装備するの、初めて」

「まるで昔に何回も使ってた言い回しですよね」

「・・・マナとライザには、言ってもいいのかな・・・」

「どうしたんですか?」

「私、ローザの記憶ともう一つ、エルベルト・グラッガーっていう名前だった前世の記憶も持ってるの」

「「・・・え?」」


二人にはかなりの信頼をおいていた。ローザのときから既に信頼をおいていたのだから話してしまっても大丈夫と踏んだのだ。


「昨日からいきなり性格が強気になったり価値観が変わったりしたのもそれが理由何だよね。・・・それで、エルベルトの時代は軍人で、このグリペンみたいな『飛行機』が空戦の主軸みたいな存在だったの。これが飛べるって確信があったのは、もう何年もの間、エルベルトとして、これと共に空を駆けていたから」

「・・・そう・・・だったんですね。・・・え? まさかとは思いますが、戦場を飛ぶ戦力が全部あんな速度で駆けてたんですか?」

「うーん、まあ、このグリペンと同じ『戦闘機』って呼ばれるものは、大体超音速だったね。落とし難くて大変だったよー」

「・・・ちなみにお嬢様は?」

「合計41機かな。・・・被撃墜で死んじゃったからあれだけど、これでもエースだったんだよ」

「「ほ、ほえー」」


呆気に取られる二人に少しほほ笑みを浮かべながら、作業を続ける。・・・明日、私の運命が決まるのだ。こうやって笑える未来にするためにも、私は成功させなければいけないのだ。

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