(一)-2

 美幸が修一に向かってそう言ったとき、高井戸の携帯電話は鳴るのを止めた。

 彼は「あっ」と声を上げた。彼は電話に出損ねた。

「高井戸さん、紛らわしいよ。電源切っておいてよ」

 修一がそう言うと、高井戸の隣に座る修司は腕を組んで目を閉じたまま無言で頷いた。

高井戸は「すみません。編集長から電話がかかってくる予定なもので」と言って電話をポケットにしまった。

 そう言っている間に、修一と美幸の母親である幸恵がお茶椀を乗せたお盆を持ってきた。そしてしゃがむとソファに挟まれた一枚板天板の高級テーブルにそれらを置き、再び立ち上がった。


(続く)

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