(一)-3
そして「来るなら固定電話の方ですよ。ねえ」と言い残すと部屋を出ていった。
「そうなの? 高井戸さん」
「たぶんそのはずです」
「そりゃあ茶川賞くらいになったら、自宅の電話にかかってくるもんでしょう。携帯にはかけてこないわよ」
修一の問いに高井戸が答えた後、美幸がそう言った後、皆ローテーブルの上に置かれた黒電話を見た。
さらに美幸は「それに……」と続けた。
「それに?」
「まだ審議中なんじゃないの?」
「そうですね。発表は午後一時ですし。それに審議に時間がかかれば、遅れるはずです。いずれにせよ、まだ時間ありますよ」
高井戸の言葉を受けて、美幸が部屋の端にある大きな古時計を指さした。時刻は一二時二五分を示していた。
(続く)
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