1.2  お隣さんとハンバーグ

「なぁなぁ。令嬢様ってどのくらい美人なんだ」

「おぉ。渉にしては珍しい質問だな」


 昨日の恵の話がまだ少し気になった。憧れの人はどんな人なのだろう。


 恵よりもまた遥かにグレードの高い存在なのだろうか。


 だとしたら恵が一般的に見てどれくらいの評価なのかを知りたかった。


「ワタルンさ!あんなに可愛いくて美人な子見たことあんの? どう見てもアイドル以上神未満でしょ」

「今の質問は涼介に聞いたんだけど……」


 いきなり話に入ってきた雫の意見ではあったが、やはり恵はとてもレベルの高い存在だったことを改めて理解する、


「それに令嬢様は今年のミス白峰しろみね(学校名)でぶっちぎり一位だって騒がれてるんだぞ。今までにも女優とか芸能界とかへのスカウトも噂されてて、話によれば全部断ってるだとかな」

「お前はその情報どっから拾ってきてるんだよ」

「まぁ、俺は白峰の情報屋って言われてるくらいだからな」

「俺はお前のこと便利屋だとしか思ってないけどな」


 涼介のことはさておき、俺は芸能界にスカウトされるくらい凄い人に毎日弁当と晩飯を作らせていた事を知り罪悪感がすごかった。


 今日はハンバーグ頑張って手伝わないと……。


「でもさなんで令嬢様はこんなどこにでもあるような偏差値も高くはない普通の高校を選んだんだろう」

「それは家が近かったとかじゃなくて?」

「でも一人暮らししてるって噂だしなぁ」


 確かに一人暮らしをするということは俺のようにある程度家が離れているか他の事情があるということ。


「ていうかさっきからりょー君は小山さんの話で盛り上がってるけど私がいること忘れてないよね」

「う、すまん。ゆるしてぇ」


 コイツらの喧嘩はいつ見てもただイチャついているようにしか見えない。


 ――その日晩。


 帰ってくると既に恵はキッチンに立っていて、可愛いエプロン姿が眩しい。


「おかえりなさい。渉くん」

「ただいま」


 なんだか夫婦夫婦みたいだ。


「今、夫婦みたいって思いました?」

「気のせいじゃないかな」

「うぅ。渉くんをからかいたいのに……」

「それじゃ、ハンバーグ作ろう」


 一瞬顔が緩みそうにはなったが耐え抜いた。


 これ以上恵に隙をみせると俺のクールで爽やかな印象が……。(クラスの陰キャ平凡男子)


「それじゃぁ!これ着てくださいね」

「ふへぇ!?」

「やっと声に出ましたか」


 こ、これは。恵とお揃いのエプロンではないか!!!ちゃんと俺の身長に合った丈だし、こんな可愛いもの俺なんかが着たら気持ち悪くないか!?


「恵さん。これはちょっと……」

「お揃いだから可愛いと思ったんですけど……。ダメですか?」

「い、いいよ!着ます」


 そんな上目遣いで『ダメですか?』なんて言われたら断れるわけないだろ!!


 前の恵のイメージと今の恵のイメージだと変わったと思うところが多い。


 こんなにも感情豊かでちゃんと笑える子なんだって言うことを知ることができた。


 だから今までは俺が知ろうとしなかっただけで案外楽しい世界がそこらうちじゅうに沢山あるんじゃないのかって思う。


「これがエプロン……。中学校の調理実習できた時以来だ」

「なんですか、その初めて月に着陸した時みたいな反応は」


 恵はクスクス笑いながら俺の反応にツッコミを入れてくる。


 慣れない漫才をしているみたいで。傍からみたら面白くもないし、恥ずかしいところだけど二人だから楽しい。


 これはもう、将来の夢は美少女と同棲二人暮しだな。


「それじゃぁハンバーグ作りましょ!」


 調味料は俺の家に元々あった物を使い、材料(肉,玉ねぎ,卵,など)は二人で割り勘している。


 家で美味しいハンバーグが食べれるのなら全額負担したいのだけど恵がそれはダメだと言うのでお言葉に甘えた。


「それじゃあまずボールに合い挽きのひき肉を入れて卵を混ぜます。その後にレンジで7分加熱したみじん切り玉ねぎも混ぜます!」

「ほぉ」


 料理は得意でないし、どちらかというと下手。だけど、この前恵と一緒にオムライスを作った時に卵も割ったし玉ねぎも沢山切ったのでスムーズに作業ができた。


「渉くん上手ですね!二人で作ると効率も上がりますし、楽しいですね!」

「そうだね!」


 料理を作る時の恵は心の底から楽しそうに見えて、笑っていると可愛い。


 少しでも気を緩めるとそのまま好きになってしまいそうな程に。


 だけど俺は好きにはなれない。


 また後悔することが目に見えて、こんなに可愛くて完璧な子が俺のこと好きになってくれる訳もないから。


 俺にはやっぱり、お隣さんのお友達くらいが丁度いい。


「ハンバーグ作るの私好きなんです」

「そりゃ、美味しいからな」

「それもあるんですが。誰かと楽しく作れる料理ですし、小さい頃に母がよく作ってくれていたので」


 恵のお母さんか、多分この子がこんだけ可愛いんだから綺麗な人なんだろうな。


「俺もよく作ってもらったよ。チーズとかのせると美味しかったんだよな」

「私もです!美味しいですよね、中に入れても美味しいんです」


 味付けはシンプルに塩コショウのみ。あとからデミグラスソース? を作るらしい。


「なんだか渉くんのハンバーグの形ハートみたいですね。可愛い!」

「た、たまたまだよ。恵だってハート作ってるじゃん」

「そーですね。なんだか夫婦みたいです」

「やっぱり恵も思ってたんだ」

「恵もってことは渉くんも一緒ですね」


 もしも恵と夫婦になったらこんなに可愛いくてオーラもあるから目立つだろうな。


 俺と恵ではスペックが釣り合わない。


 話が盛り上がっているうちにハンバーグも焼き上がり、フライパンに残った油とケチャップや醤油などを使ってソースを作った。


 テーブルに並べると家で作ったとは思えない程に映えていてハンバーグから出る湯気と香りが食欲をそそる。


「手を合わせて、いただきます」

「いただきます」


 ハンバーグをナイフで切ると肉汁が溢れでて上からのっけたチーズが溶けて肉に絡まる。


 口に入れると肉汁が全体に広がっていくのが分かる。


「ほっぺがおちそぉです」

「こんなに上手くできるなんて、驚いた」

「また一緒に……。作りたいです」

「うん!次は何を作ろうか」

「はいっ!」


 俺はもう恵を簡単に手放せない体になっていた。











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