1.1  お隣さんの憧れの人

 今日は令嬢様と近所のスーパーに買物。


 学校が終わって先に夕食を済まして、知り合いに出会いそうにない時間を狙って外へ出た。


 令嬢様こと恵と夕飯を一緒に食べて少し遅くなってから帰るという半共同生活を始めてからもう一週間くらい経つが。わりと恵が心が広く俺の面倒をみてくれているので苦がなかった。


 むしろ良いことだらけで料理、弁当、たまに洗濯と前よりも快適に過ごせている。


 勿論、パンツは俺が自分で洗うがたまに混じっていても怒らないでさり気なく部屋に置いていてくれるのが有り難い。


 こんなにも毎日が楽だと何もできなくなるダメ人間になりそう。


 そんなこんなで今日はスーパーに二人で歩いて来たのだけど。


「渉くんは明日何が食べたいですか?」

「うーん。恵の手料理は何でも美味しいし、なんでもいいよ」

「それが一番困るんです」


 また怒られてしまった。


 確かに、何を食べたい? と聞かれて『なんでもいいよ』なんて言われたらその質問に意味がない。


 だけど『これが食べたい!』といったような料理もなくてですね。


「ロールキャベツとかサーモンのカルパッチョとかがいいな」

「わかりました!それにしてもオシャレな料理ですね。メインがまだ決まらないですね」

「ハンバーグとかも食べたい」

「おぉ!あるじゃないですか。じゃぁ、明日一緒に作ってください!」

「はい?」

「だって私が毎日晩ご飯を作っていても渉くんは料理を作らないままの生活が続きますし。いつかはまた一人でご飯を作らないと駄目なのですから練習しましょう!」


 そう言われ俺は明日、ハンバーグを作ることになった。


 買い物が終わってスーパーから出ると外は冷え切って昼間とは段違いの温度。


 今日は珍しく星が綺麗で、気持ちが落ち着いて心地よかった。


「恵は目標とかあるの? 頭も良いんだし」

「いえ、ただ人の役に立てて自分の自身が持てるような居場所が欲しいです」

「以外だな。大学とかも行かず?」

「はい。私が今勉強を頑張っているのは自分に自身をつけるためだということもありますが、いつか昔憧れだった人に会えたらなって一心でやっますかね」


 恵はその憧れの人の話を淡々と話し始めた。


 それは恵が小学生の頃。


 慣れない外を歩いていて迷子になり道沿いで座り込んでいたら、同い年か一つ上くらいの年の少年が自分の家まで連れて帰ってくれて。

『小学生だからって泣くな。自分に自身が持てる奴になれ』と言って飴玉を渡し去っていったとのこと。


 それからその子に会ったことは一度もなくて、自身を持てと言ってくれた彼に会いたいらしい。


「その子、小学生にしては大人みたいなこと言う子なんだな」

「きっと頭の良い子なんです。私の家も最寄りのお店を伝えただけで認知していましたし」


 ていうか俺、その男の子より全然ダメじゃ……。


「凄いな。俺も見習わないと」

「でも私は渉くんのこともリスペクト尊敬していますよ?」

「なんでだよ」

「それはヒミツです」


 令嬢様は少し照れながら顔を半分隠して視線をらした。


 俺の良いところか……。ゲームが上手い、クレーンゲームが得意、トランプ遊びが得意とかか。


 全部ゲームじゃねぇかよ。


「渉くん!明日はハンバーグ頑張りましょうね!」

「俺もそれくらいは作れるように努力します……」



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