0.9 お隣さんは優しい?
「なぁ、渉。彼女がいる俺が言うのもなんだが」
「なら言うなよ」
「相変わらず冷たいなー」
俺の親友――矢島涼介には彼女がいる。
イケメンで社交的な印象を放つ涼介はその見た目のまんま優しくて気の利く陽キャだ。
クラスのほとんどの奴と仲が良く、彼女だっている。そんなこいつにも汚点はある。
女好きで変態だってことだ。
「令嬢様って家でもあんな感じに優しいのかね。あんなさ可愛い子が彼女だったら自慢にもなるし、お風呂一緒に入ったりもできるし。夢、いやロマンだよな」
「何言ってんだ。通報するぞ」
少しだけ想像してしまった自分にささやかな罰を与えよう。
「え、渉。なんで自分の顔ビンタしたんだよ」
「お前みたいに俺は頭いっぱいのお花畑じゃないんだよ」
なんでこいつに彼女ができるんだよ。まぁ、彼女といっても雫だから羨ましくはないんけど。
「それでさ、どう思う」
「いや、それは……」
どこからか鋭い刃物のような視線を感じる。
視線の主は令嬢様こと小山恵だった。
たぶん、俺と涼介の会話は聞かれていたのだろう。次に発する言葉は一歩間違えると死の危険に繋がりかねない。
「そ、そりゃロマンだよ。優しいだろうな、料理もできて掃除もできて、なんでも出来ちゃいそうだよな」
勿論、小山恵を褒めるように喋り、少し大きめの声で耳まで届くように意識した。
でも小山の顔色はますます悪くなり、俺は間違った方を引いてしまったのだと理解した。
――放課後、薄暗なったマンションの部屋の前に座り込む影。
近ずいていくとシルエットははっきりしてくる。
「小山さん、なにしてるの」
「藤山くんを待ってました」
やっぱり昼間のこと怒ってるんだなぁ。
とりあえず何か言われたら謝らないと、家に帰れない気がする。
「怒ってるよな?」
「はい。非常に怒ってるんです」
「お世辞みたいなことばっか言ってごめん。でも、俺は本当に……」
「ち、違います! それは……私のことをあんなに大きな声で褒めないでください。恥ずかしいんですよ?」
昼間に言った内容は良かったということなのか。
「恥ずかしがらなくても、小山さんくらいの完璧美少女は俺れだけじゃなくて他の人に言われることもあるでしょう」
「藤山さんは違うんです……」
俺、なにか嫌われるような変なことをこの子にしたのかな。
思い当たるフシはまぁ……。毎日自分は何もせず、小山に朝早くから弁当作らせて。起きたと思ったら二度寝して起こしてもらって着替えまで出してもらう始末。
これは怒らせちゃうよな。
「ごめんね、小山さん」
「ちゃんと謝れる人なんですね。藤山さんは」
「はい。もう迷惑もかけられな……」
「今から晩ごはん食べましょう」
その一言で俺の脳内は更にパニックになった。
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