0.8  令嬢様と朝

 俺は青春なんて知ったことがない。


 好きな人ができたことはあったけど、それをと呼んで良いのかと聞かれるとNOだ。


 たまに昔のことを今みたいに思い出すことが多々ある。


 そこは大きな公園がすぐ近くに見える河川敷で、野球やサッカーをする子どもたち。それを見守る大人と、ベンチに座る高校生の姿。


 周りを見渡せる河川敷にはいつも俺と、その隣には幼なじみの女の子がいて。毎日俺はその子と他愛のない会話をして小さな幸せを感じていた。


 俺はその子のことが好きだった。


 ――中学を卒業する手前になっていつもの河川敷で放課後、俺は彼女に告白をした。


 でもその子は驚いた様子で『わっちーのことは一番の親友だって思ってて、恋愛対象としては見れない』と返された。


 その子は確かに間違っていない。


 俺はその子にとって幼なじみであり、一番の親友。そいつが彼氏なんて考えられるはずかないのは理解できた。


 それから俺とその子は話す機会がなくなり、今では覚えてくれているかどうかも危うい。


 勝手に期待して、勝手に後悔する。それは青春ではない。


 俺の知っている青春というのはもっとキラキラしていて羨ましく手が届かないようなものだと思う。


 俺は正しい青春の定義を知りたい。


「んー」

「起きましたか?」


 眩しい光が窓から差し込んでくる。


 目の前には小山恵というむちゃくちゃ可愛くて美人なクラスメイトがエプロン姿で俺を呼んでいる。


 過去の次は現在の夢? 小山まで夢に出でくるようになったか。


「小山さぁ。頭……でて」

「ッ!? はい……?」

「夢ならなんでも叶うんじゃないのかよ……」


 夢ならささやかな幸せくらい。ささやかな青春くらい俺に分けてくれてもいいだろ。


「仕方ないですね……」


 温かい、小山の手。なんでこんなに安心するんだろう。


「も、もうおしまい!! 藤山さん早く起きてください!寝坊しますよ」

「んー?! え、夢じゃない」

「何言ってるんですか」

「いや待て待て。なんでうちの家に小山恵がいるんだよ!!」

「あなたが昨日、私に鍵を渡したんですよ」


 あぁ、そうだ。昨日の夕方、小山に今日お弁当を作ってもらうことになって合鍵渡したんだっけ。


「それじゃぁさ。どっから夢?」

「知りません!」


 こんなに恥ずかしいことは初めてで、一回人生を一からやり直すか死んでしまいたいと思ってしまった。


「あの、洗い物して弁当代全部出すんでさっきのことは全部忘れてください」

「それは無理です。藤山さんの弱み握っちゃいましたよっ!」


 可愛くゆってみても俺からしたら怖いでしかなかった。


「絶対クラスの奴だけにはバラさないでくれ」

「バラしたら私も困りますよ」



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