0.6  お隣のお弁当

 令嬢様のお弁当を持っているせいか今日はいつもと気分が違う。


 朝もらった弁当も中身がなるべく崩れないようにバックに詰めて登校する。

 これも作ってもらったからには大切に扱わないと。


 学校に着くと下駄箱前に涼介がいた。


 涼介は珍しく雫と一緒にはおらず、あんなに四六時中ハッピーセットみたいにくっついているのにと不思議に感じた。


「今日は彼女いないんだ」

「そうだなー、たまには渉と登校したいなって思っちゃって」

「語尾にハートつけるな気持ち悪い。真面目に答えろ」

「いやぁーなんかさ、最近流行りのパズルゲームにハマってオールしたらしいんだけど。寝坊したってさ」

「お前の彼女は行動力は凄いけど、アホだな」

「思ってても言うなよ、そこが可愛いのさ」


 俺にも彼女ができたらそう思える日が来るのだろうか。


 ――三時間目の授業が終わるチャイムが鳴ってお昼休みに差し掛かった。


 そして雫は昼休みの始まりで遅刻して登校してきた。


 少し寂しげな顔をしていた涼介も元気になって『シズタン!待ってたよん!』とふざけたキモい喋り方で雫を呼び、イチャつき出した。例えるならミ○チーとヨ○リンみたいだ。


 涼介の席の隣が俺の席だという事もあって雫が近づいて来ると、雫はなぜか俺の正面を向いて立ち止まった。


「ねえ、ワタルンさぁ。このお弁当どうしたの?」

「いや、その……。作ってもらった? 的な」

「誰に?」

「し、知り合いだよ。誰でもいいだろ別に」


 なんでこいつはいつも無駄に鋭いんだよ。科捜研の女くらい洞察力高いんだよ。


「ワタルンもしかして彼女できたんじゃない?」

「まじか!渉、親友の俺くらいには紹介してくれても言いじゃねーかよ」


 もう面倒くさいのでフル無視してやろうと思っていると、なんだか嫌な予感がした。


「藤山さん。昼休み終わる前には食べ終えてくださいね」


 それは小山恵の声。席の横を通り過ぎる瞬間、俺の耳元で囁いたのだった。


 小山の方を見ると周りには友達と思われる女子が二人いて、あの一瞬で友達二人と涼介、雫にバレず俺に話しかけたのは至難の業すぎて驚いた。


 いや、怖すぎだろ。早く食べないと……。


 弁当を巾着袋から取り出して弁当箱をゆっくり開くと、卵焼きやきんぴらゴボウ、鮭に竹輪ちくわの磯辺揚げなど豊富な種類の具が詰まっていた。


 だけどこれってさ……。


「ワタルン……。クマのキャラ弁じゃん」

「だな」

「でもむっちゃ可愛い!!クオリティー高いし、これ作った人相当料理が上手な人だよ」


 でもなんてクマなんだよぉ!!


 いや、作ってもらったのだから文句いわずに食べないと……。


「美味しい……」

「泣くなよ渉。てか、誰なんだよ、これ作ってくれたの」

「最近少し仲良くなった近所のお姉さんだよ」

「そっか。お前はガリガリなんだから沢山太らしてもらえよー」


 涼介のあおりはともかく、小山さんが作った弁当は泣くほど美味かった。


 どれも身体にいいものばかり。だけど全て味に飽きないとても満足感ある弁当になっていた。


 こんなに美味しいと作ってもらうのが申し訳なくて、お金を払った方がいいのではないかと思ってきた。


 すると一つ席をとばして右の席に座る令嬢様から弁当どうだった?と確認のアイコンタクトがきた。


 俺は机の下からグットサインを送ると、少し笑みを浮かべてまた視線を別に戻す。


 これは帰って感想を伝えないと。『ありがとう、美味しかった』だけじゃ流石に申し訳ないと思った。

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