0.5  お隣と二人だけの秘密

 俺は今、いやもう三十分も前から令嬢様の部屋の前の玄関に立っている。


 小山恵の家のインターホン……押していいものなのか。


『もぉ、こんなに朝早くから呼ばないでもらえますか?』とか言われた時には何も言い返せない。


 ストイックでお手本のような生活を送られているだろう令嬢様の大切なモーニングを俺なんかが邪魔しても良いのだろうか。


 いつもの俺ならさっさとインターホンを鳴らして鍋一つくらい渡せていただろうに。


 あ、それとスープカレーの感想を言わないと。


 覚悟を決めた俺は小山の家(マンションの部屋)のインターホンを押した。何を言われるか心の準備をしておかないと、令嬢様は怖い。


 ガチャっとドアが開くと灰色の可愛らしいパジャマを着た姿の小山恵が身体を半分出して俺のことをジッと見てきた。


「あの……。昨日はスープカレーありがとう。美味しかった」

「良かったです。感想が美味しかったというのは少し少ない気もしますが、藤山さんにしては上出来です。それではこれを」

「ん?」


 ドアから身体半分状態の小山は何やら四角いものが入った水色の可愛らしい巾着袋を渡してきた。


「あぁ。これに金を入れてこいということか」

「なんでそうなるんですか。人を荒手な晩ごはん詐欺師みたいに言わないでください」

「じゃあこれは?」

「その……。朝作りすぎてしまって、あなたいつも昼ごはんはパンですし。お弁当を作りました」


 なんで令嬢様は俺が毎日昼休みにパン食べてること知ってるんだよ。


「あなたはもっと健康に気を使うべきですよ。それにお弁当は作ると安くて美味しいですからね!」

「令嬢様でも節約とかお金のこと考えたりするんだな」

「令嬢様って言うのはやめてください。それと私が節約する理由は自分が本当に使いたい時に使えるお金が増えますし、普段から物の有り難みを忘れないためです」


 やっぱり俺とは違って考え方の根本的なところが違うなと思った。


 俺もなるべく節約を意識して生活をしてきた。だけど食事にもゲームにも服にも欲しいものは欲しいと欲張りだからお金は貯まっていかないし、これのために貯金ちょきんしたいと思うようなこともない。


 小山恵は考え方も俺より遥かに大人で、高校生らしくなかった。


 だが俺も人のことはあまり言えない。だって部活もしていない帰宅部が外にも出ず、ゲームしたりしてダラダラ毎日をこなすかのように生きているのだから。


 正しくニートみたいな生活をおくっている。


 もう少し外で友達と遊んだり、家とか店で集まってワイワイするのが高校生ってものだと理解はしているけどなかなか。


「小山さんってしっかりしてるよな」

「な、なにを……。褒めても私は何も出しませんからね!」

「君も人を荒手の詐欺みたいに言ってるけど」


 いつもなら俺がツッコまれる側で『なんでやねん!』なはずなのに、小山といるときは小山のほうが真面目すぎて普通の人とは違うせいか、俺がツッコミ担当になってしまっている。


「それじゃあ、また学校で」


 そう言うと小山は部屋に戻って、俺はマンションの廊下で一人になった。


『それじゃあ、また学校で』ってなにか学校であるってことなのか。


 いや、俺の考えすぎかな。

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