0.4  お隣の借り返し

 日曜日の朝。


 普段なら近所のスーパーで惣菜を詰めるバイトをしているだろう時間。


 高校生である俺が一人暮らしを続けるには食費や家電等の必需品をバイトをして稼ぐ必要がある。


 運のいいことに俺はそれなりに恵まれているので、学費やテキスト。家賃やこの部屋にかかる費用はすべて親二人が出してくれる。


 この前も大学を目指していると父さんに伝えたら『費用は心配しなくていい。任せなさい』と笑って答えてくれた。


 最近は奨学金を借りたりして将来自分で稼いで返していくというシステムの人だっている中、こう言ってくれる親がいるのはとても有り難い。


 感謝してもしきれない。


 今日はたまたまバイトが休みで朝からダラダラしながらテレビを付け、スマホをつつく。


 勉強や外での人間関係は人並みに上手くやってはいる俺だが、家での過ごし方。掃除、洗い物、食生活は酷くおろそかにしていた。


 元々家事が得意ではなく、一人暮らしを始める前にもよく親には心配をかけたものだ。


 今はなんとかスーパーの惣菜やカップラーメンなどを食べて生きながらえている。


 うちの学校ではよく健康診断があってその度に医師に『食生活を見直しなさい』と診断されたものだ。


 あぁ、次の健康診断って一ヶ月後だったっけ。ダルいなぁ。


 もうすぐお昼の時間に差し掛かろうとしていたので、俺はカップラーメンのフィルムを剥き捨ててポットでお湯が湧くのを待った。


 するとまたしてもインターホンが鳴る音が部屋に響く。


 この家のピンポンをピンポンさせるのは管理人でもなく、両親でもなく、涼介でもない。ということは……。


「宅配便でーす!」

「はぁ」


 宅配便か……。


 小山恵なんじゃないかとどこかで期待した俺。


 最近少し人との関わりが増えたせいなのか分からないが、自分自身でありながら感情を読めないことがある。


「はーい」

「むふふ。藤山さん、騙されましたね?」

「はい。まさか令嬢様が宅配のバイトをしているなんて」

「違います!!」

「ま、まさかデリバリーのおねえさ……」

「通報しますよぉ!」


 やっぱり小山恵は学校での雰囲気とは違って二重人格なんじゃないかってくらいに可愛く喋る。


 今まで俺の中での小山恵は冗談なんて言えない、真面目で、何をしても抜かりのない人間だって思っていたのに。


「それで今日は借りを返すって言ってたことですか」

「はい」

「じゃ、やっぱりデリバリーのおね……」

「警察って110番でしたよね?」


 お口をフグみたいに膨らませて冷静且つ可愛らしく怒る小山はその言葉の通り可愛かった。


 三次元に興味の薄い俺でさえも小山のことは可愛いと思ってしまうので恐ろしいところだ。


「今日はですね。先日の借りを返させてもらいに来ました」

「それは嬉しい」

「食べ物にアレルギーはありませんか?」


 頷くと小山は小さな赤色の鍋を俺に渡してきた。


「これは晩ごはんで作ったスープカレーです。この間、部屋にお邪魔させて頂いたときに冷蔵庫の中がちらっと見えて、料理をされないと分かったので」

「そうですね。普段はジャンクフードと栄養ドリンクが主食なのでとても嬉しいです」

「ちゃんと食べてくださいね。鍋は明日返しに来てください」


 そう言うと小山は部屋へと戻って言った。


 小山が作った手作り料理。

 いや、人生初の女子に作ってもらった手作り料理何だもんな……。


「いただきます」


 普段はソファの前にある低めのテーブルにカップラーメンをのせて晩飯を済ますのに。


 今日はご飯に特別感があったのでダイニングテーブルで食べようと思った。


「ん、?!」


 最初は我ながら最低な性格なのでハバネロの粉末とか盛られてないよなと警戒していたが、いざ口に入れると美味しい。


 それも今まで食べたカレーの中で1番と言えるほど美味しくて久々のまともな食事に感動した。


 母さんのカレーもここまで美味しいとは思ったことないし。カレーなんて全部味一緒だろって思っていたのだが。


 ん? なんだこの袋……。


 鍋の横に何か付いていたので剥がすと、小魚とアーモンドの口直しと、小さなメモ用紙に『温めて食べてください。感想お願いしますね』と書いてあった。


 令嬢様は字も綺麗で口直しなんて気が利くな……。カルシウムを摂取させてどうするつもりだ。


 俺は鍋を温めなおしてスープカレーを食べることにした。







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