0.3 お隣はクラスメイト
「なぁ、見ろよ。令嬢様は今日も他の女子に比べてばっつぐんに可愛いな」
「お前、小山さん以外の女子を全員敵に回す発言だぞ……」
デリカシーのない陽キャ軍団のサブキャラみたいなこいつは中学からの仲で今も親友を続けている
名前からも読み取れるの如く、こいつはイケメンで茶髪の似合う陽キャだ。
もちろん、俺とは違って彼女もいる。
「もぉー!りょー君ったらぁ!私がいるのにも関わらず小山さんが可愛いとか許せないよぉ」
エネルギッシュに涼介のことを『りょー君』などとふざけた名前で呼ぶこいつは、涼介の彼女兼一応俺の友達の
雫の方は高校になってから知り合ったが涼介と付き合っているということもありで会う頻度も多い。なので仲は良いと思う。
ただこのカップルは俺の目の前であっても平気でイチャつきだすし、帰り道でも学校でも手を繋いでリア充である事実を見せつけてくるから鬱陶しい。
醜い嫉妬ではあるのかもしれないが、非リア民をバカにして生きていると俺は解釈して気にせず毎日をポジティブに生きている。
「ていうかさ! ワタルンさぁ、小山さんのこと前まで令嬢様ってずっと呼んでたよね? なんで変えたのー」
女子はこういうところが無駄に鋭いので勘弁してほしい。
あとちなみに俺は雫からワタルンとふざけたあだ名で呼ばれている。
「なんとなくだよ。まぁ、気分だ」
「ワタルンは昔からそんな感じだもんな!小学生からなにも変わらないところが取り柄だな」
「お前はその呼び方やめろ」
涼介は小学生の時、習っていたサッカーでチームメイトだった。小学校は違えど、なにげに長い付き合いだ。
それにしてもだ。
気分で呼び方を変えたと雫に説明したものの、本人はあまり納得していない様子。
あの日俺の部屋に小山恵が入って色々あって知り合って呼び方を変えたと説明するのはとても面倒くさい。本人は令嬢と呼んで欲しくないみたいだから名前で呼ばないとダメだし。特に恋愛脳で青春真っ盛りの雫には言ってはならないと思っている。
それにあんな一瞬の出来事を話のネタにして小山に迷惑をかけることになったら良くない。
「もしかして……。ワタルンと小山さんが内緒で付き合ってたりして」
「それはない。天と地がひっくり返ってもそんな奇跡はない」
「そりゃそーだよね〜」
「どういう意味だ」
小山恵と俺が付き合うなんてありえない。そもそも俺には彼女できたこともないし。最近では諦めていて、仮に小山のことを俺が好きだとしても付き合える確率なんて宝くじが当たるか雷に打たれてあの世へ行くことよりも少ないだろう。
あと、今の俺なら小山恵と付き合うことよりお金を選ぶ。
もちろん2次元に課金。
「ワタルンはそんなこと言ってるからいつまで経っても彼女すらできないんだよ」
グサッ!!!
「彼女すらってなんだよ、友達もいないみたいな言い方して。雫、お前は思いやりがない」
「確かに……。雫、流石にいじめすぎ。渉は女より小説書いてる方が好きだろうし。純粋でいいと思うぞ」
リア充で陽キャな涼介は俺とは正反対の立場やオーラであるけど、人のこと考えられる優しい奴なのでそこは昔から評価している。
「でもさ、小山さんっていつも皆との間に見えない壁があるっていうかさ。仲良くなってみたいけど話しかけづらいよね」
「そうだよなぁ。家も大きそうだし、上品で真面目だもんな」
家も大きそう……か、やっぱりイメージってものは恐ろしいな。
誰かが勝手に思い描いた理想像やイメージでその人の性格や立場も簡単に変えられてしまうのだから。
――今日も日が暮れた。
こんなこと思っている間にも俺は歳を取って、一生彼女や大切な人ができないまま何もかも終わってしまうのだろうか。
熟年結婚も面白いな。今のうちに資産増やしておくか。
「あ、藤山さん」
名前を呼ばれたと思ったときには身体が自然と振り返っていた。
「令嬢さ、いや。小山さん。こんばんは」
「今言いかけましたね。わざとらしいですよ」
小山恵の言う通り、わざと間違えるフリをした。
名前を呼ばれた瞬間から、もう誰が話しかけてきたかは分かっていたし、あんなに綺麗で透き通るような声は忘れてしまうはずがなかった。
「今日は制服なのか……」
「学校帰りですよ。クラスも同じだからわかってますよね。おじさんみたいで怖いです」
「ごめん。ちょっと熟年年の差結婚について考えていたらからかいたくなって」
キョとんとした顔で不思議そうにする小山恵。無理もない、目の前に訳の分からない事を言う変人が立っているのだから。
「あなたと話していると何故か調子が狂います……」
「元々、お互いリズムが違いますよ」
不満気に顔をしかめる小山恵はアニメの美少女キャラと比例するレベルに可愛かった。
元々お互いのリズムや性格も違うはずなのに。話していて少し波長が合っていると感じるのは俺だけなのだろうか。
「藤山さん……。その、この間はありがとうございました」
「いえいえ、美人な女性が困っているのに見過ごせませんよ!」
「藤山さんはそのキャラクターは合っていないと思います。あと、男の子も困っていたら助けてあげてください」
今日はこの間よりも話がはずんだ。
令嬢様をからかうのは少し楽しいと何処かで感じているからなのか。話すのが楽しく感じた。
「それではまた」
「あっ! 藤山さん。今度お礼をさせてください」
「え……。いや、遠慮します。俺はただ部屋に入れただけですし」
「借りは作りたくないので」
そう言うと小山恵は自分の部屋に帰って行った。
「借りって何で返すんだろう……」
最近少しだけ、一日一日が濃く感じられるような気がする。
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