第26話 最悪な出来事

 「おい、磨戸葉まとば


新学期が始まり、わたしが自分の席に着くとクラスの男子から声をかけられた。

なんだか嫌な予感がする…


「お前、姫宮ひめみと付き合ってるんだって?」


一瞬何を言われてるのか判らなかったけど、初詣の事を思い出した。


でも杏輔くんとは仲良くしてもらってるけど、別に付き合ってはいない。


どうしよう…なんて答えよう…

〔付き合ってる〕って言ったら嘘になるし、杏輔くんにも迷惑がかかる…

〔付き合ってない〕って言って初詣の時みたいになったら…


わたしが答えに困っていると、声をかけた男子がいきなり眼鏡を取って長い前髪を持ち上げた。


「ホントだ…磨戸葉って意外に可愛かったんだ…」


わたしはめちゃくちゃ恥ずかしくなって、どうして良いか判らない。


「め…眼鏡返して…」


そう言うのが精一杯だった。


近くにいた男子まで机の周りに寄ってきてわたしの顔を覗いている…

こんな事やめて欲しい…


平気でヒトの嫌がる事ばかりして…

だから男の子なんて嫌いなんだ…


「なあ磨戸葉、姫宮と付き合ってないなら俺と付き合おうぜ」

「なにお前ドサクサに紛れて抜け駆けしてんだよ」

「磨戸葉がこんなに可愛いなら俺も付き合いてぇよ」


やだっ!

私のことなんかほっといて!

あんたたちなんて絶対嫌!

お願いだからどっか行って!


わたしは俯いたまま、早く皆んなが退いてくれるのをひたすら待った。





「何やってんだよ!」


その声に思わず顔が上がった。


「ほらぁ! 眼鏡返せよ!」


取られた眼鏡がわたしに返される。


「蒼香、大丈夫か?」


わたしの事を懸念して気遣う顔があった。


「杏輔くん…」


眼鏡を渡してくれた手に思わずしがみついて、杏輔くんの腕に顔を埋めた。


それまでの緊張が、杏輔くんの顔を見て一気に崩れてしまった。


「うっ…うっ…杏輔くん…」


安堵した気持ちがしずくとなってわたしの目から零れ落ちていく。


「お前ら寄って集って女の子泣かせてどう云うつもりだ?!」


杏輔くんの怒鳴り声が静かな教室に響き渡る。


「杏輔どうした? えっ?! 蒼香どうして泣いてんの?」


丁度登校して来た侑季乃くんも、杏輔くんの声に慌てて傍に来ると、わたしが泣いてるのを見て狼狽えてる。


「コイツらが蒼香の眼鏡を外して取り囲んでたんだ」


杏輔は周りにいた男たちを睨みつけた。


「俺たちはべつに…」

「磨戸葉が可愛いって訊いたから…ちょっと見たくて…」

「そうだよ…大人しいから気付かなかったけどこんなに可愛いなら彼女にしたいじゃん」


男たちの言い分に蒼香は益々杏輔の腕を強く握り締めて泣き出した。


そんな彼女をみて杏輔も侑季乃も勝手な言い分に怒りが湧いてきた。


「ふざけんな! 蒼香は見世物じゃないんだぞ!今まで見向きもしなかったくせに! コイツは小学校の頃からずっと可愛いんだよ!」


こんなふうに言われると、男たちもバツが悪い。


「悪いけどコイツ一旦保健室連れてくわ」


杏輔は優しく蒼香を立たせると自分のタオルを貸してやった。


「判ったよ。先生には僕から説明しとくよ」


「悪い…頼むな。

蒼香…歩けるか?保健室で少し休んだ方がいい」


わたしは貸してもらったタオルで顔を隠しながら頷いた。

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