第24話 初詣
クリスマスの日に杏輔も蒼香もウチに泊まってから、俺たちの仲は前よりずっと良くなった。
「お待たせ!」
「きゃあっ!蒼香ちゃん可愛い!」
俺たちは5人で初詣に行くことになり、近くのカフェで待ち合わせをした。
正月と云う事もあって美鈴も蒼香も可愛い着物姿だ。
美鈴はウール地で臙脂に黒の絣模様。
蒼香は黄色の黄八丈。
美鈴が褒めるのも頷ける。
普段の地味な蒼香とは思えない。黄八丈の鮮やかな黄色がよく似合っている。
「こんな可愛い蒼香ちゃんをクラスの男子が見たらビックリするね。絶対声かけてくるよ!」
今にも飛び跳ねそうな勢いでニコニコしている美鈴は、悪戯を仕掛けた子どもみたいにはしゃいでる。
「もう、それを言うなら美鈴ちゃんだって可愛いよ。玲くんいても関係なく誘われそう」
「えっ? そうかなぁ〜」
美鈴は袖口を手でつまみ、両手を広げて回って見せ始めた。
「わあ~っ!」
言わんこっちゃない…馴れない着物姿の草履で回ったもんだから案の定バランスを崩してふらついた。
「美鈴ちゃん危ないよ…」
すかさず手を出して美鈴を抱きとめる。
こんな時は絶対玲が助けるから心配はいらないが、注意は必要だな…
「美鈴はしゃぐと危ないだろ!
お前の場合、同じ可愛いでも座敷童子みたいな可愛らしさだ。蒼香とは意味が違う」
俺は美鈴に言い聞かせるように話した。
「座敷童子ぃ〜? 酷いよお兄ちゃん!
それって褒めてるの?それとも真面目な顔してけなしてるの?」
美鈴は口を尖らせて頬を思いっきり膨らませている。
「ほらほら、こんなところが可愛いんだよ」
玲は膨らませた頬を指で突付いている。
こんな事を玲からされたら美鈴は黙るしかない。
「もう、女の子の顔なんか安易に触っちゃダメなんだよ~」
そう言いながらも美鈴は玲と一緒に歩き出した。
「ふふ…美鈴ちゃん可愛いわね。侑季乃くんもお兄ちゃんとしては心配ね」
蒼香から揶揄うように笑って言われたので俺も少し恥ずかしくなった。
俺たちは近くにある神社へやって来た。
出店もあり、正月と云う事もあって可成り賑わっている。
参拝が済むと皆んなで出店を見て回った。
女性陣が真っ先に買ったのはりんご飴。
二人して大口をあけて噛ってるのは笑えた。
男性陣もいか焼だの、お好み焼きだの、各々好きなものを買って食べる。
「あれ? 磨戸葉?」
蒼香が声のする方へ顔を向けると同じクラスの男子が近くに立っている。
「学校とはエラい雰囲気が違うんで一瞬誰か判らなかったよ」
いきなり声をかけられ返事も出せずにいる彼女の姿を、その男子はまじまじと見つめている。
「お前も初詣にきたのか?良かったらこのあと一緒に食事にでもいかない?」
「わ…わたしは…」
「クラスじゃ目立たないから判らなかったけど結構可愛いな」
「あの…悪いけど…」
「悪いが蒼香は俺と一緒に来てるんだよ」
男の子に詰め寄られまごついてる彼女の傍に来てくれたのは杏輔だった。
「杏輔くん」
安堵した顔で蒼香が杏輔を見た。
「えっ? なんで姫宮が?」
男子が不思議そうに二人を交互に見る。
「ちっ! だから言ってるだろ。俺と蒼香は一緒に来てるんだよ。お前も一人で離れて何見てたんだ?」
杏輔が出店の前で見ていた蒼香に訊いた。
「ハンカチ…このガーゼのやつ…どっちにしようか迷ってて…」
蒼香が並んでる商品の中から、金魚の柄と花柄のハンカチを指して答えた。
「ったく…おっちゃん、これ2枚ね」
「あいよっ!2枚で1200円だけど兄ちゃんなら1000円でいいよ」
「サンキュー」
杏輔は代金を渡し、昔駄菓子屋でよく見かける白い紙袋に入ったハンカチを受け取った。
「んっ!危ないからひとりで離れんなよ」
ハンカチの入った紙袋を彼女の前に突き出した。
「杏輔くん、ありがとう」
紙袋を受け取り、杏輔に向かってにっこりと笑顔を見せる蒼香を、アングリと口をあけてその男子は見ていた。
「なんだ、お前ら付き合ってんの?
くそっ、磨戸葉がこんなに可愛いなら先に声かけとくんだったな…上手いことやったな」
男子はブツブツ言いながら離れて行った。
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