第23話 玲にかけた魔法

 玲が、〈家族が1番大事〉と云うワードに奇妙な引っ掛かりを覚えたのは、彼の中で〈家族〉と〈1番大事〉の識別が上手くいかなかったんだと思う。


だから俺は玲に〈優先順位〉と云う魔法をかけた。


コンピュータの学習方法で[機械学習]と云うのがある。


例えばねこ科の動物を見分ける方他のひとつに“教師あり学習”と云う学習法で、学習データにラベルをつけることに拠って正解が示された状態により学ばせる手法だ。


俺は玲に、〈優先順位〉と云うラベルを付けた。

玲の深層学習の処理機能は可成りの高さだ。

自分の中で〈優先順位〉を演算していく。


対象は何でもいい。

単に〈優先順位〉としかラベルをつけていないから、人でも物でも構わない。


その中で導き出された答えが多分美鈴だろう。

その後の処理で《美鈴》=《家族》と云う分類を導き出す筈だ。


玲にとっては何をおいても《美鈴が1番》と云う定義が確立される。



今まではそれでも良いと俺も思ってた。

だけど、あと三ヶ月もしないうちに玲は次の〈繭換〉を施される。


そう…その時〈生殖に関するユニット〉が組み込まれるんだ…


そうなれば必然的にソフトが起動する…


《美鈴が1番》と云う定義が確立されたとしても、それが必ずしも《対偶の相手》と紐づけられる訳じゃない…


兄としては可成り複雑な気分だ…

玲は俺の大事な弟だが、人工のAI…


それに、使用される生殖ユニットって、どんな設定になってるんだ?

仮に玲が美鈴を対偶の相手に選んだとしてどうやって生殖行為に持って行くんだ?


頼む…玲…美鈴はまだ子どもなんだ…

いきなりソフトを起動させることはやめてくれよ…


俺は自分で確定ボタンを押してしまったような自己嫌悪感に打ち拉がれた…



「蒼香ちゃん、今日は大丈夫?」

「うん、初めてだったからビックリしてたけどちゃんとOK貰えたよ」


「杏輔も大丈夫か?」

「俺は男だぞ、反対される要因がない」

蒼香と杏輔は今夜我が家に泊まって、文字通り聖夜を皆んなで過すんだ。


これで時間を気にすることなく皆んなで初めてのクリスマスを祝った。


「嬉しい!まさか友だちと一緒にクリスマスを祝えるなんて思ってなかった。ありがとう!」


いつもクラスでは本ばかり読んでいて、無口で大人しい蒼香がこんなによく笑って話すヤツだって知ったらきっと男どもがほっとかないだろうな…


「蒼香、学校でもそれくらいよく笑ったらモテるんじゃないか?」

俺は学校とは違い、美鈴と一緒にはしゃぐ蒼香を見て言った。


蒼香は本ばかり読んでた所為で目が悪くなったと自分で言ってるように、普段は眼鏡をかけてる。

しかし俺が見ても結構可愛い顔をしてるので男子から誘われても不思議はない。


どうしてこの話題を出したかと云うと、蒼香は他の男に持っていかれても可怪しくないと思わせたかった。


「まさか!わたしみたいに面白みのない女なんて誰も見向きもしないよ」

蒼香は馬鹿げた話のように笑って聞き流してる。


「えぇ~そんな事ないよぉ、蒼香ちゃん可愛いもの…眼鏡やめてコンタクトにしなよ」

美鈴が蒼香の眼鏡をとって俺たち男子の方に向けた。


「ほら、可愛いいよねぇ?」


「うん、可愛いいよ」

「それで学校行ったらすぐ彼氏が出来そうだな」


「もう!揶揄わないでよ!彼氏なんて欲しくないからいーの!」


玲と俺の言葉に蒼香がとんでも無い事を言い出した。俺は少し困った。


「なんで?男が嫌いなのか?それなら今まで無理に誘ってたのかな…」


俺は蒼香が彼氏を欲しくない理由が知りたかった。


「違う!違う!皆んなは友だちだからいいの!」

蒼香は慌てて答えた。


「わたしなんて一緒にいてもつまらないと思うの…クラスの男子も誰々と付き合ったけどつまらないからやるだけやって別れたとか…平気で言ってるじゃない…だから…」


「馬鹿なこと言ってんな!男が皆んなそんなヤツばかりだと思うな!お前をつまらないヤツだなんて思った事は一度もないぞ!」


まさかの杏輔が蒼香に怒鳴った。


「あ…いや…侑李乃も玲も同じだ!

そうだろ!」


「あ、ああ…」「うん…」


「ほら、二人もそう言ってる!お前はつまんないヤツじゃない!

だ…だからって無理に彼氏を作らなくても良いんだからな!お前は結構世間知らずだから悪い男に引っかかるかもしれない!」


「もう!杏輔くん、励ましてる割に彼氏を作るなとか訳わかんないよ!」


美鈴のひと言に杏輔の顔が紅潮した。





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