第21話 感情
「クリスマス?」
玲は同じクラスの上城真登香から誘われて応えた。
「一緒にどうかな?イルミネーションが綺麗な場所があってムード満点なんだって!行ってみようよ」
「クリスマスは毎年侑季ちゃんたちと過ごしてるから…」
「そんなの今年は行けないって言えばいいじゃない。それに、宝生くんだって今年は友達の誰かと過すかもしれないし…」
彼女はどうしても僕とクリスマスを祝いたい様子だった。
「とにかく、今は返事出来ないよ」
玲はこの上城真登香が苦手だった。
彼女は、同じクラスだけど結構男子に人気で、クラス委員もしてるからいつも人の輪の中心にいる。
だけど文化祭での演劇よろしく、どんな時でも自分の意見を強引に通そうとするところがあって、対応に複雑さを要する相手だからだ。
「侑季ちゃん」
玲は図書室にいる侑季乃に重たい口調で話しかけた。放課後は、侑季乃や蒼香がいつも図書室にいる事が多いので、自然にそこに集まるようになった。
今日はまだ杏輔しかいない。
「クリスマスの事なんだけどさ」
「なんだ、誰かと約束したのか?別に俺たちに気を遣うことないぞ。まあ、美鈴のヤツは多少ガッカリするかもしれないが…」
高校になれば交友関係も広がるから仕方ない。
「違う、誘われただけ。侑季ちゃんの所であるならそっちへ行くよ」
毎年の事だが心配だったのか、例年通りウチでする事を伝えると、いつもの笑顔に戻っていた。
「なんだお前らクリスマスまで3人一緒なのか?
ホント仲良いよな」
杏輔が呆れたような顔を見せた。
「お待たせ、どうしたの?何の話?」
蒼香がやって来て俺たちの会話に交ざった。
「クリスマスだよ。ウチは毎年家族で祝うんだよ。美鈴と玲と俺の3人で」
俺は蒼香に話してやる。
「いいなぁ~やっぱり仲良いよね。ウチはもう家族でなんかしないよ、皆んなそれぞれでお祝いしてるから」
俺たちのクリスマスが蒼香には羨ましいみたいだ。
「蒼香ちゃんは誰かと約束してないの?」
「誰も…ほら、わたし友達少ないから…」
蒼香がいつもの事だと言わんばかりに苦笑してよこした。
蒼香は人見知りが激しい上に、クラスでも本ばかり読んでいて、所謂根暗の地味キャラで通っているから周りも何となく敬遠するのだろう。
付き合ってみると全然違うんだけど…
俺は杏輔の方を盗み見る。彼は俺に気づくと途端にソッポを向いた。
やれやれ…
「ところで玲は誰に誘われたんだよ」
杏輔は玲に話題を振ったようだ。
「同じクラスの上城さん」
「お前、それ断るのか?」
杏輔が有り得ない事のように訊き返す。
「だって僕、あの子苦手なんだよ」
玲はあからさまに不愉快な顔になる。
「お前、それ他のヤツに言わない方がいいぞ。ただでさえ彼女とクリスマスを一緒に過ごしたいと思ってるヤツが何人もいるのに、断った上に苦手だなんて言ったら殺されるぞ」
杏輔は不愉快な顔をする玲を茶化した。
「仕方ないよ、同じクラスだから何度か話しもしたけど…どう云う訳か彼女には拒否反応ばかり起こるんだ」
拒否反応か…
玲の感情はどう云う振り分けになっているのかな…
拒否=嫌い でいいのか?
そう云えば〈好き〉と云う表現は使うが、〈嫌い〉と云う表現は訊いたことがないな…
〈苦手〉と云うのがそれに当たるんだろうか…
「ごめ〜ん、掃除当番でおそくなっちゃったぁ」
美鈴もやっと来た。
「杏輔も蒼香も良かったら今年は一緒にクリスマスしないか?」
俺は心做しか杏輔の方を見ながら提案した。
「えっ…いつも3人なのにいいの?」
蒼香が遠慮気味にしている。
「美鈴どうかな?」
俺は美鈴にも訊いてみる。
「え〜二人なら大歓迎だよ!」
「杏輔もいいか?」
「おう…」
俺の問いにソッポを向いて返事する。
全く…お膳立てはしたんだからそろそろ頑張れよ…
「だけど、悪いけどこの事はここだけの秘密で頼むな。玲は上城さんに家族だけで祝うって断るんだぞ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます