第20話 カエルの王子 後篇
「キスシーンはそんなに大事なの?」
文化祭で〈カエルの王子〉と云う劇をする。
ラストをお姫様と王子の抱擁で終わらせるか、キスシーンで終わらせるか未だに論争している。
「当たり前よ!ラストはお姫様と王子のキスで終わるのはお伽噺の鉄板じゃない!」
僕の質問にお姫様役の上城真登香が力説する。
「だけど原作にも壁に叩きつけられるだけでキスはしてないんだ。原作通りでいいじゃないか」
「そうよね…」
「でも折角だから夢がある終わり方もいいんじゃないの?」
「王子様とのキスなんてキュンと来ちゃうもんね」
キスは愛情表現のひとつだから結婚を約束した二人が交わすのも理解できるが…
これってグリム童話だったよね…
グリム童話にはカエルの王子だけじゃなく、カエルにキスをする話しはないんだけど…
「ねえ、美鈴ちゃんはキスしたい?」
「えぇ?!」
いきなり玲くんから言われてわたしはなんて答えたら良いのか判らなかった。
「あ…あの…どうしたの?」
やっと言葉がでた。
「実はね…僕のクラス、ラストをどうするかまだ決まってないんだよ…キスするかしないかで、そんなに大事なのかなぁ?」
「カエルの王子だっけ?」
「うん、原作は王様なんだけど王子の方がウケがいいからって」
「ふ〜ん」
「でもさ、あのテの童話には子どもに対する戒めみたいなものがあって、キスの重要性は感じられないんだけどな…しかも原作はその後同衾するんだよ」
玲くんは納得出来ないみたいだ。
「そうだね、原作にないなら無理に入れる必要は無いと思うけど…きっと、キスシーンを入れたかった上城さんは、王子様のキスに憧れたのかも…」
「なんで王子様とのキスが憧れなの?」
「なんて云うのかな…王子様は女の子にとって理想の男の子なんだよ…素敵で、優しくて、格好良くて…そんな人がしてくれる甘いキスは理想の恋を象徴してるんだと思う…」
玲くんは判ったのか、判らなかったのか、ただわたしの顔をじっと見てた…
そんな見ないでよ…こんな恥ずかしい話しの後で…
「ねえ…美鈴ちゃんにとってもキスは特別?」
わたしを見つめて玲くんが訊いてきた。
「勿論特別だよ」
「誰としたい?」
玲くんが覗き込むように訊いてくる。
そんなに見たら恥ずかしいよっ!
もうっ!誰としたいって決まってるでしょ!
「わたしは…大好きな人としたい…ずっとずっと、一緒にいたいって思えるくらい大好きな人と」
わたしは玲くんにそう伝えた。
「判った、ありがとう美鈴ちゃん」
玲くんはわたしの手を握って笑っていた。
文化祭…
わたしは複雑な気持ちで演劇を観に来てる。
玲くんのクラスが始まる…
「お姫様、わたしはお腹がいっぱいになったので、今度は貴女の柔らかな絹のベッドで一緒に寝たいです」
「気持ちの悪いカエルのくせに、なんて図々しいの!お父様止めさせて!」
「姫よ、約束したことは守らなければならないよ」
「こんな気持ちの悪いカエルとなんて絶対嫌!」
「どうかわたしもベッドに入れてください。お父様に言いつけますよ」
「こうすればお前もゆっくり寝れるでしょうよ!」
お姫様がカエルを壁に投げつけた…
素敵な王子様に戻ってこの次だ…
「どうかこれまでの非礼をお許しください。そして、どうがわたしの愛を受け入れてください」
「素敵な王子様!勿論です!」
この後キス…って
玲くんは…
お姫様を持ち上げて回ってる…
勝手にラストを変えた玲くんは皆んなから散々怒られたらしい…
「ねえ…どうしてラストを変えたの?」
帰り道玲くんに訊いてみた。
「だって美鈴ちゃんにとってキスは特別なんでしょ?だったら僕も大事に取っておきたかったんだよ。だからお芝居でも出来なかった」
そう言ってわたしの手を握ってくれた。
もう、直ぐ握るんだから…
でも…今日はいいや…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます