第15話 3日目
麗は女性陣が何度も声をかけたが起きれず、皆が食事を始めてからやっとバンガローから姿を見せ席に着いた。
「おい、昨日から自分勝手な行動が多過ぎるぞ!」
昨日は行き先も告げず、帰りも連絡なしに遅かったのを目に余ると感じたんだろう、杏輔が文句を言った。
「ゴメンてばぁ~、そんなに怖い顔しなくたっていいじゃん。それより煌月くん、今日はどうするの?」
麗があっけらかんと悪びれもせず、玲に身をすり寄せて訊いた。
その様子に美鈴だけでなく、班員誰もがいい感じを受けなかった。
「今日は皆と一緒に回りながらバードウォッチングするよ」
「なら今日は一緒に回っても良いわね」
麗はニコニコ顔で玲の腕にしがみついた。
当然、美鈴の顔は明らかに不満げだ。
朝食も終わり、昼食の為に残りのサンドイッチと果物等をバスケットに詰め玲は美鈴たちの後ろをついて行った。
玲は自分の観察もするが、美鈴たちの観察している植物の写真を撮ったり、杏輔の虫の写真を撮ったりと、他の班員の手伝いをしていたらしい。
俺が昼食で合流した時は朝の時とは逆に、麗が物凄い顔で玲を恨めしそうに見ている。
「何かあったのか?」
俺は杏輔に訊いてみた。
杏輔は一瞬何の事だと首を傾げていたが、俺の視線の先に麗を見つけ納得したようで話してくれた。
玲は一緒に回ろうと云う麗の誘いにはのらず、植物の写真を撮っていた。
その上、自分のところにも来て虫の写真を撮ってくれたり、巣の観察を手伝ってくれた。
「それまでうるさく纏わり付いてたのに、玲が俺と一緒に石の下にあるダンゴムシのコロニーを見つけたり、朽ち木の下から親指大の幼虫を見つけた辺りから近寄らなくなったよ」
杏輔はその時の様子を聞かせると、思い出したのかしたり顔で笑ってた。
午後も似たような感じで過ごしたので、夕食準備辺りから麗は玲に何かとすり寄って甘い声を出した。
しかも、夕食は殆ど玲が作っている。
麗は玲の横で寄り添って話しをしてるだけ…
俺は二人の少し離れた所でスケッチをしていたが、届いてくる会話の端々に、
“美鈴ちゃん”と云うフレーズが玲の口からよくあがる。
「美鈴ちゃんのを見てた」
「美鈴ちゃんが教えてくれた」等である。
「宝生さんて、煌月くんの幼馴染みなだけだよね?」
その質問は玲には理解出来なかったのか返事がない。
「煌月くん、彼女いないでしょ?」
単刀直入な質問だ。
玲の方もそれに関してはしばらく考えている様子だ。
「それって…対偶になる前の準備期間中の女性って事?」
俺は思わず声を殺して爆笑した。
多分麗の方は何を言われてるのか判ってないだろう。
「はあ? もう!いないならいないって言いなさいよ!
あのね、夕食の後花火を皆な見に行くじゃない?その時、二人でここに残らない?」
俺の心臓が跳ねた!
これって…どうなんだ…?
夕食後、このキャンプ場にある湖で花火が上がる。それを楽しみに来ている人も多い。
「わたしさ、煌月くんともっと仲良くなりたいんだ。 ね、お願い」
麗は、恥ずかしいから皆がいない時話しを訊いて欲しいと理由をつけて誘っている。
やれやれ…
玲のこれからの課題は会話から相手の心情を読み取る能力だな…
明らかに奇しい麗の言い分に普通なら気づく筈なんだが……
言葉の表裏を理解するのは中々難しいらしい…
夜…
皆が花火に向かった後、俺はこっそり二人がいる部屋に近づく。よく聞こえないが麗の怒鳴り声がする。『どうしたんだろう…』すると突然後ろから声がする。
「あいつらもう始めちゃった?」
「!!!」
「何やってんだよ、あいつらに気づかれちゃうだろ」
心臓が飛び出そうなほどビックリした俺は杏輔に口を押さえられた。
見ると杏輔だけでなく、美鈴や蒼香までいる。麗の様子がおかしいので皆で引き返してきたそうだ。
バンッ!
乱暴にドアを開けると麗が出てきた。
「何よ!折角わたしが誘ったのに!
この意気地なし!」
その様子に一同呆気にとられた。
「土壇場で何も出来ない臆病者だって言いふらしてやる!」
「なんだ、玲のヤツ何もしなかったのか…」
杏輔は少し残念そうだ…
「杏輔くん! 美鈴ちゃんがいるんだから玲くんそんな事する人じゃないよ!」
蒼香は杏輔を嗜めてる。
「い…いや…わたしは別に…」
美鈴は……
笑ってるがあれば絶対怒ってるな…
玲…とりあえず美鈴には謝れよ…
フォローはするから…
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