第12話 感情

 あの日以来、俺は部活を辞めた。

目標が出来た俺は、その為に自分のすべき事へ精魂を傾けた。


時々では考えないような言動を玲がしそうになると、何気なくフォローして注意を促すのも俺の役目になった。


俺たちは地元の高校に入学する。

美鈴は単純にまた3人一緒で喜んでいる。

玲は美鈴の傍にいることが出来て喜んでる。

俺はそんな2人のフォローが出来て一先ずは胸をなでおろす。



しかし、俺と美鈴は兄妹だからいいが、玲は親戚と云う関係。

玲があんまり美鈴に纏わりつくからアッと云う間に二人は噂の的になった。


「もうっ!玲くんが傍に来過ぎなんだよ!」

美鈴は玲に文句を言ってるが案外まんざらでもない様子だ。


玲は誰に対しても優しいので、中学の時から女子の間ではポイントが高い。


お祖父ちゃんが誰を見本にしたかは知らないが、玲はイケメンと云う程では無いにしろ、そこそこ整った顔立ちをしている。


高校生ともなれば、恋愛対象として玲を見る女の子が現れるようになっても不思議ではない。


可哀想に…玲にはそのの感情は無いのに…


女子の間で人気の高い玲が、まるで金魚のウンチの如く美鈴にばかり構っている。


多少うるさいと思ってても、何となく気分が良いのも事実らしい。


しかも

「僕は美鈴ちゃんを護る為に存在するんだから、君のためなら何だって頑張るよ」

と云うこの台詞。


俺や美鈴は子どもの頃から散々訊いてるから余り深い意味は持たない。


ところが、高校は中学と違って他の学区からも入学してくる。

初めて玲を見るやつは、美鈴にゾッコンな男子と受け取る。


別に悪い意味でもないし、寧ろ妹の美鈴に悪い虫がつかなくて俺としては結果オーライだった。



「ねえ、煌月くんは夏休みのサマーキャンプどうするの?」


クラスメイトの夢乃麗ゆめのうららが玲の席まで来て訊いている。


「侑季ちゃんに訊いてからにする」


玲は当たり前のように答えた。


「わたしは行こうと思ってるんだけど、もし煌月くんも行くなら班は一緒に組んでよ…」


「判った、考えとくね」


そう言って彼女に笑顔を向けた。

サマーキャンプでは班で行動が基本であり、6人でひとつの班だった。


結局3人はサマーキャンプに参加する事にし、班決めでは夢乃麗の他、磨戸葉蒼香まとばそうか姫宮杏輔ひめみきょうすけが同じ班になった。


麗は行きのバスからずっと玲にべったりとくっついている。


小学校の頃から、遠足でも、林間学校でも、

校外での移動は、いつも美鈴の隣に玲がいた。


「美鈴、お菓子食べるか?」

「いらない」


「美鈴、何か飲むか?」

「いらない」


美鈴は参加が決まって、班での当番を皆んなで話し始めた辺りから少し様子がおかしい。

機嫌の悪い時が多くなった。


サービスエリアで俺がバスに戻ると、美鈴が先に居て上着を被って横になってる。


「どうした?具合でも悪いのか?」


久しぶりの旅行だし、しかもバスなので酔ったのかと心配になった。


「大丈夫だから静かにして!わたし寝るから着いたら起こしてね」


美鈴は被っていた上着へ更に深く頭を潜り込ませた。


明らかに機嫌が悪い…





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