第11話 倫理
「君が最初にした質問。
〈人体実験をしたか、否か〉それに関して云えば、わたしは“した”と認めるしかないだろう。」
真っ直ぐに俺を見る伯祖父に、新たな緊張で躰を支配される。
「〈人体実験を正当化する手続きであるインフォームドコンセント〉が不十分だった」
正当化?
手続き?
「あ…あの…インフォームドコンセントって、よく病院とかで訊くあの言葉ですよね?患者の権利を護る…」
「そうだ、だからと云って100%信頼出来るものなのか?医師や研究者が都合よく操作している可能性もある。しかも得てして患者側からの立証は難しい」
俺は言葉に詰まってしまった。
「患者の権利を護る言説ではあるが、結局のところ〈どうすれば倫理的に容認される仕方で人体実験を継続出来るか〉と云う難問に出した戦術のひとつがインフォームドコンセントなのだ」
うっ…なんか話しが段々難しくなってきた…
「話しを戻そう…
わたしは作業中の事故で右腕を失った青年に、開発中の義手を取り付けた」
伯祖父はその時の状況を俺にも判るように説明してくれた。
患者は、作業中機械に右手肘より先を押し潰された為上腕部より切断。
その再生手術だった。
手術自体は成功。しかしその機能の能力値が異常だった。
彼の指は通常の何倍もの速さで電卓を叩き、握力はコンクリートの柱さえ難なく握り潰す事ができ、その拳の威力は厚い壁に穴を開ける事も出来た。
見た目は生身と全く変わらないその腕が、殺人兵器並みの能力を引き出したのだ…
患者には能力の制御に問題有りとして、通常の義手に付け替えた。
患者はその説明に納得がいかずに訴訟を起こした。
「わたしは開発中の義手によるリスク説明を怠ったとして訴えられた」
伯祖父の話しはそれだけでは終わらなかった。
患者はどこで訊いたのか、外された義手の能力を知って再び付けろと迫ってきた。
そんな腕が付いていれば怖いものなしだ。
技術データを盗まれそうになり、命まで狙われた。
「全く馬鹿げてるだろう?たかが義手ひとつで…」
お祖父ちゃんは鼻で笑ってるけど玲を見る目は悲しみで辛そうに見える。
お祖父ちゃんの技術にはそれだけの価値があるんだ…
危険と隣り合わせになるくらい…
「わたしはもし次同じ目にあったら、玲や研究データと共にこの世から消える覚悟は出来ている」
そんな覚悟を決めなければならないような背景がきっとまだ有るんだろう…
「侑季乃、君が勉強したいのであればいくらでも応援しよう。その為の学費は出してやる。留学がしたければその費用も惜しまない。その結果が医者でも技術者でも構わない。ただ、君が倫理を学び、その本質を理解し、そして覚悟が固まった時にはまたわたしの
俺は伯祖父の目をしっかりと見て答えた。
「はいっ!」
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