第9話 秘密

【存在理由】玲はそう答えた。

俺にはそれだけで十分だった。


「校外学習では命がかかってたとは云えやり過ぎだぞ。あれで美鈴まで疑いだした。

あいつは無頓着なヤツだから上手く言い含めたが次は誤魔化し切れないからな」


「ありがとう侑季ちゃん…」

玲の顔が安堵の表情に変わる。


玲は…何があってもだ。


「やるならもっと上手くやれよ…」

俺は自分が疑うきっかけになった出来事を思い出しながら淡々と説明した。



二人の会話を、モニター越しに静かな眼差しで見つめている人間がいた。 


玲の生みの親である煌月準之助だ。


「侑季乃か…さて…どうするかな…」



それから何日か経った帰り道、俺は伯祖父とばったり会った。


「侑季乃くん…少し話さないか」


このシュチュエーション…

よくドラマとかで見るぞ…

俺は緊張で躰が強張った。


まさか…

秘密を知った俺をとか無いよな…

そんなつまらない考えが頭を過ぎる。


伯祖父の家(玲の家でもあるが…)

今まで入ったことの無い奥の部屋に通される。


ダメだ…

このままで行くと二度とこの家から出られないパターンじゃないか?


殺されるとか…

監禁されて人体実験されるかも…



「あ、侑季ちゃんいらっしゃい」

固くなっている俺の耳に玲の明るい声が入ってくる。


「おい、玲 少し侑季乃と話をするからお茶を入れてくれ」

「はーい」


伯祖父はソファに腰掛けるとテーブルを挟んで向かいの席を勧めてきた。


俺はゆっくり座った。


「侑季乃、お前の考えをもう一度訊かせてくれないか」

一瞬、何を言われているのか判らなかった。


に対して思う事が有るんじゃないのか?」


俺は迷った。全てを話したら今度こそ殺されるかも…

適当に誤魔化して帰った方がいい…


ダメだ…俺は玲のなんだから…


緊張でやたら喉が乾く…

「お祖父ちゃん…ロボットの研究してましたよね」


「何故そう思うのかな?」

静かに聞き返す伯祖父が逆に少し怖かった。


「お…俺…」


「お待たせー」

玲が小さな子どもみたいにはしゃいでお茶を運んできた。


くそっ!バカッ!空気読めよ!

そうは思ったが俺は玲が持ってきてくれた麦茶をゴクゴク飲んだ。


コップをテーブルに戻した瞬間、後悔が襲ってくる。これにもしクスリとか入ってたら…


「ねーねー、何の話し?」

何を期待しているのか、目を輝かせてこっちを見てる。

全く…こいつはぁ!


「うむ、続きを聞こう」

真っ直ぐに俺を見つめる伯祖父に、思い切って切り出した。


「俺…図書館で…偶々見た古い記事で知ったんです…お祖父ちゃんが昔研究施設の職員だったこと…」


伯祖父の表情が変わったが、もう話しを止める気はなかった。


「その記事では…お祖父ちゃんが人体実験で警察に書類送検された事が書いてありました…あの…本当なんですか?」


伯祖父は麦茶を半分ほど飲むと、再び俺に目を移した。


「人体実験の概念がどこまでかにもよるがね…しかし、そんな事訊いてどうする」


「玲です!」

止まらない俺は臆せず答えた。


「お祖父ちゃんはあの後施設を解雇されてますよね?!

でも研究は止めなかった!

その結果がここにいる玲だ!」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る