第8話 気がかり

 「お兄ちゃんも玲くんが人間じゃないって思ってるの」

突然の言葉に息が止まるかと思った。


まさか美鈴がそんなことを言い出すなんて…


美鈴の言う通り俺はあいつを疑っている。

理由は数え切れないほどある。

何しろ子供の時からずっと一緒にいるんだ。


だけど確証がない。

初めは俺もこんな荒唐無稽な話、馬鹿げてると思った。

兄弟のように育ったのに…


でもあいつを見てると疑いはどんどん確信に変わっていく。


俺はそんな目であいつを見たくなかった。

だから中学は部活に入ってあいつと距離を取った。



「おい美鈴、いくらあいつが時々常識外れな事をするからって人間じゃないって云うのは酷くないか?」

俺は努めて平静を装って言った。


「そ…そうだよねー、やだなわたしったら…」

「そりゃ偏屈な研究ばかりしている爺さんと生活してるんだ。多少常識外れなところは勘弁してやれよ」俺は笑って誤魔化す。



「ありがとう、お兄ちゃん」

美鈴は自分の部屋へ帰って行った。



はあーっ

俺は長い溜息の後頭を抱えた。

どうしたらいい?

中学生の俺に出来ることなんてたかが知れてる。



次の日、部活の帰りに玲の家へ寄った。


「どうしたの?侑季ちゃんが来てくれるなんて」

嬉しそうな顔をする玲を見たら少し気持ちが折れそうになる。


玲は俺を部屋へ通すと、お茶だお菓子だと用意を始める。

小さい時から何度も来ているこの部屋。

多少の物は成長と共に代えられてるが殆どあの頃のままだ。


「話があるんだ。お前もここに座れよ」


玲は不思議な顔で俺の前に座る。

俺は迷った。普通に考えれば頭のイカれた話だ。


何の疑いもなく、天使のような顔をして座ってるこいつに、

《お前は人間じゃないだろう?》なんていきなり訊いたらこいつはなんて思うんだろう…


「侑季ちゃん話って何?」

いつまでも黙っている俺を変に思ったのか玲の方から訊いてきた。

俺は覚悟を決めた。


「お前…人間じゃないだろう?」

少し上ずった、それでいて震えている声が口から漏れた。

でも顔は背けなかった。それはしたらダメだと思った。


「もし…僕がそうだったら…侑季ちゃんは僕を嫌いになる?」

悲しみをはらんだ目が向けられる。


俺がお前を嫌いになるとか、心配するところはそこなのか?


俺の目の前に座っているこいつはどこからどう見ても人間そのものだ。

これは世界的に見ても凄い事だ。

こんな凄いAIまだ誰も開発したなんて聞いたことない。


―多分、世間知らずな中学生の情報だけで言うなら…

勿論どこかの国が秘密裏に製造していたら別だけど―


「俺たちは兄弟のように育った。その気持ちはこれからも変わらない。

目的が何か判らないが俺が言えるのは、今の生活を続けたいのなら言動には気をつけろ。疑われて良い事はない」


そうだ…こいつの存在が世間に知られれば今の生活は間違いなく無くなる…


「僕のすることはひとつだけ。君と美鈴ちゃんを護ること。それだけが僕のだよ」



































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