第6話 疑い

 目を覚ますと、病院のベッドだった。


「あ…目が覚めた?」

看護士さんが声をかけてくれた。


「あ…あの…」

「もしかして彼氏くん?廊下にいると思うから呼んでこようか?」

「わたしが行きます」

廊下に出ようとした看護士さんを止めて、わたしは躰を起こした。所々痛くて顔が歪む。


「無理したらダメよ。大きな怪我はして無いけど斜面を落ちた時躰をぶつけてるから…」

看護士さんがわたしの躰を支えてくれる。


わたしはゆっくりベッドから足を下ろした。

少しふらつく躰を支えてもらいながら廊下に出ると、ソファで毛布に包まり眠っている玲がいた。


この姿だけを見れば、どう見ても普通の人間だ…


「この子凄いわよね。みんな驚いてたわよ。あの山道を貴女をおんぶして歩いて帰って来るなんて…」

看護士の女性はわたしが病院ここに運ばれるまでの事を教えてくれた。


わたしがあの斜面から足を滑らせて落ちた後、クラスメイトは当然先生に報告した。

それを訊いた先生は直ぐ救助を頼んだ。

現地に救助隊が到着したのはそれから2時間後で直ぐに捜索が開始された。


救助隊は、わたしを追って玲が降りた事に難色を示した。どこまで落ちたか判らないのに、無謀にも降りて行くなんて下手をしたら自殺行為だ。最初に落ちた女子だけでなく、助けに行った男子も救助しなければならないだろう…頭の痛い問題だった。ところが、捜索を開始して2時間も経たずに無事の知らせが届いたのである。


救助隊の人たちだけでなく、警察、合宿所、病院などの人たちは誰も信じられなかったらしい。


保護された後、玲は警察官からの質問に、

「僕はが良かったんです。来る前に現地の地形は調べてあったし、天気も良かった」そう答えたようだ。


が良かった?

本当にそうだろうか?


玲はわたしを背負うと、迷わずに歩いていた。道もないところを躊躇いもせずに…


歩きづらい山道、足元も不安定で一人で歩くのも大変な筈…

それなのに、息切れもせず歩いていた。


しかも…

わたしの躰が冷えた時、彼の躰が暖かくなった。


中学生にそんな事が出来るだろうか…


考えれば考える程彼に対する疑問は大きくなっていく。


「玲くん…」

無意識に伸ばした手が彼に触れる瞬間、眠っていた玲は目を開けた。

《目を覚ますと云うより、近づいた手に反応して反射的に開いたように美鈴には見えた》


「あっ…美鈴ちゃん、大丈夫?」

玲は美鈴を見ると飛び起きて美鈴の躰を心配した。


「わたしは平気。怪我も大した事無かったから…わたしより玲くんの方が疲れてるでしょう?ずっとわたしをおんぶしてたんだから」


美鈴の言葉に玲はキョトンとした顔をする。


「なんだそんな事?僕なら平気だよ!

僕は美鈴ちゃんの為ならなんだって出来るよ!」


その言葉を、一緒にいた看護士の女性は、〈恋する女の子の為に頑張る素敵な男の子〉

と受け取っていたが、

当の美鈴は全然別の事を考えていた。


『玲くん…貴方…一体何者なの?』








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