第4話 誤差
「じぃちゃん…いつになったら学校行けるの?」
あの交通事故があった日から、玲はずっと学校を休んでいる。
外傷も無く、検査の結果も異常無しだったが、だからといって翌日から子どもを学校に行かせる親などいない。
そうでなくても、今回の事故では色々懸念される事柄が浮き彫りになった。
まず、衝突時の意識喪失。
わたしの設定ではあり得なかった。
玲には自己防衛機能が備わっているので、頭と起動システム〈所謂心臓にあたる部分〉を同時に破壊しない限り外部から起動を止めることは不可能なはずだ。
それと…事故の前と後では感情をコントロールする制御機能に若干の誤差が見られる…
エラーが出るほどの数値ではないが以前には見られなかったものだ…
この誤差が玲にどんな変化をもたらすのか、今の段階では皆目検討もつかない…
「じぃちゃん! 毎日こんな検査ばっかり飽きちゃうよぉ!」
何本ものコードに繋がれ、毎日同じ様なテストの繰り返しで玲は不満を漏らし始めた。
「じぃちゃん!じぃちゃん!じぃちゃん!」
「えぇい!うるさい!
来週から行っても構わんから今は静かにしてろ!」
「やったーっ!」
学校に行けると判った途端、玲の喜びようときたらそれまでの不満タラタラな顔とは大違いだった。
………
玲は、こんなに喋るヤツだったか?
テストばかりで飽きて不満?
飽きる…?
不満…?
確かにより人間らしくする為に、感情面では多少の喜怒哀楽をつけたが、基本怒ったり、泣いたりはしない。
これはもう一度プログラムを再起動させるべきか?
いや…再起動させても全てがリセットされる訳じゃない…寧ろ今の誤差がそのまま何かの形で反映されたら…
煌月は悩んだ。
玲には、これから先も侑季乃や美鈴を護ってもらわないといけない。
その為には無駄な感情(私情)は無い方がいいだろう。
煌月は悩んだ結果、このまま様子を見る事にした。
今のままであれば《玲の役目》の妨げにはならないだろうと判断したからだった。
ある意味、この段階でプログラムの交換をしておけば良かったのかもしれない。
新しく書き換えてしまうと今の玲の自我が無くなり別の人格になってしまう。
つまり今の玲は死んで新しい玲が生み出される。
相手はAIである。
破棄され、書き換えられてもその事を悲しむ訳では無い。
判ってはいたが、何年も今の玲と過ごし情が湧いてしまったのである。
この選択が、玲にとって自分の存在価値に対する思わぬ足枷となっていく…
そして、それは美鈴にも影響するようになることを今の煌月には知る由もなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます