第2話 成長
「信じられない…」
美鈴の両親が事故で他界した後、彼女を引き取った
「この子、本当にロボットなの?」
もう一度確かめるように伯父に訊く。
「ロボットとは…随分古臭い呼び名だな。
まあ、呼び方は何でもいい…
この子は確かに、俺が今のAI技術の粋を集めて造り上げた人造人間だ」
人造人間て…それこそ今時言わないわよ…と万梨子は心の中で毒吐いた。
「そんな大変なもの、こんなところへ持ってきちゃっていいの?」
半ば呆れるように訊ねる。
姪の問いに煌月準之助は少し険しい顔に変わる。
「俺はこの技術を公表する気はない。
玲はあくまで、侑季乃や美鈴、特に女の子である美鈴のお守役として造ったんだ」
伯父である煌月は美鈴の寝顔を見て言った。
「だってこんなに凄い技術なのに?
それこそ世界中が伯父さんを注目するかもしれないじゃない」
煌月は暫く黙っていたが、重い口を開いて万梨子に質問する。
「もしお前ならこの技術を何に役立てる?」
いきなり真面目な質問に少し戸惑う。
「ん…そうね…医療とか…介護とか?」
在り来りの答えだとは思ったが、これだけの技術があれば医療現場でも介護現場でも、目覚ましい活躍が期待出来ると確信せざるをえない。
「残念だが、それが現実になるのは何十年も先のことだ。先ずは軍事や裏社会など、汚い世界で使われる。遅かれ早かれ、この技術に誰かが到達する。
だが、今は…母親代わりだった姉の孫たちのために俺は使いたい」
玲の素性を漏らさないため、この事実は今のところ煌月と万梨子の胸の中に納められた。
煌月は、宝生家の裏にあった駐車場を買い取り、自分の研究施設と共に移り住んだ。
玲は名実ともに煌月が親戚から預かった子どもとして美鈴や侑季乃と一緒に育つことになる。
玲は半年に一度メンテナンスを行う。
ソフト面のプログラムでは、元々自己学習能力が高いので、収集する情報によって自ら成長していく。
ところがハード面。所謂見た目だが、こればかりは機械の躰が自ら成長する事はない為、新しい躰に換える必要があった。
「よし、起きていいぞ。どうだ?」
診察台のような場所に様々なコードで何本も繋がれた状態でゆっくり起き上がったのは新しく生まれ変わった玲。
「違和感は無いか?」
「大丈夫だよ」
玲は今年、侑季乃や美鈴と一緒に5年生だ。
普通の子供が成長していく様に、玲も学校での生活で他の子どもたちと一緒に成長していった。
他の子との違いは、
「ねえ、じぃちゃん」
コードを外し、まだ裸のまま玲が煌月の方へ顔をむけた。
「《好き》っていっぱいあるの?」
思いがけない質問に煌月は首を傾げた。
「クラスの女の子が僕に言うんだけどさあ…
別にその子が嫌いなわけじゃないから《好き》だって言ったんだけど…なんだかあとからその子がいきなり怒り出して泣かれちゃたんだよ…」
さて困った…
このテの情報を入れるべきか…
子どもだと思ってまだ考えてもみなかった…
与えるとしてソレは情報としてか…
感情も伴わせるべきなのか…
人間なら当然抱く感情だが…
AIの彼にソレは必要なのか?
ところが、そんな時に限って思わぬ事故が起きた。
信号無視をした車が、横断歩道を渡ろうとしていた侑季乃、美鈴、玲の方へ突っ込んでくる。
そこはAIである。
危険を察知するや玲は二人を突き飛ばした。
車は残った玲を撥ねた。
その小さな躰は5メートル程飛ばされ、ガードレールに当たって倒れる。
「きやぁぁぁぁぁ……!!」
下校時間の通学路で女の子の悲鳴が響き渡った。
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