第30話 役場初出勤
さて、夜9時に目を覚ましたはいいが、スーパーは閉店間際だ。さっさと着替えて買い出しに行こう。俺が欲しいのは、
他にも、100均やドラッグストアで買いたいものはたくさんあるが、もういい時間なので今回はこの辺で。明日の朝、あっちから帰ってから改めて買い出しに行こう。
アパートに帰り、改めて情報を整理する。スーパーで買って来たかったものは、全てゲットした。そして他に家から持って行きたかったものは、ハンガーとピーラー。全部インベントリに入れた。よし。
そしてこっちで調べたかったこと。まず泡風呂用の入浴剤について。使い切りなら個包装の粉末タイプ、コスパなら液体タイプ、プレゼントなら固形タイプがおすすめだそうだ。割と手頃な値段だし、後はドラッグストアの品揃え次第だな。
それから料理の素について。スーパーで並んでいるものをじっくり眺めるのも何なので、ネットでラインナップを予習する。おお、クリーム煮なんてあるのか。そういえば、あっちで卵も採れるようになったんだ。卵料理もいいかも知れないな。全部試食してみて、美味かったヤツはレシピを調べて、あっちで作ってもらえれば最高なんだが。
後は、砂糖の作り方。サトウキビを手に入れるのは面倒そうだな。砂糖大根ってあった気がするけど…ダメだ、砂糖にするのが面倒臭そう。サトウキビの方が幾分マシか。とりあえず、どっちも種や苗(?節のようなもの)がネットで買えそうだ。
そして油だな。油といえばアブラナだろうか。うわ、種を乾かして炒って絞るのか。面倒臭そうだな。オリーブの方がマシだろうか。苗木がホームセンターにあったような気がするが…ええい、サトウキビと一緒にポチってしまうか。
うん、今の段階で知りたかったことは、大体解決した。さあ、そろそろ日付も変わるし、朝まであっちでのんびりするか。俺はアラームを8時にセットして、ベッドに潜り込んだ。
こっちはいつもいい天気だ。早速ベランダの掃き出し窓を開けて、朝一番の収穫。ピーマンとモヤシを植えて、それぞれ5分と1分で収穫。よし。
薬草を植えてから一階へ。タオル類はすっかり乾いている。こっちは三日くらい経っているだろうからな。さあ、今日はワイシャツに下着、部屋着を洗濯だ。一人用の縦型洗濯機は、容量が小さい。何回かに分けて回さないといけないだろう。
洗濯機を回している間に、待望の青椒肉絲ともやし炒め。どっちも簡単に出来てしまうのがいい。なお、肉はわざわざ
鼻歌まじりに料理を終え、フードコンテナに小分けして、今食べる分だけ皿に盛る。朝一番のモーニングビール、いただきます。
「うっま…」
ピーマンもモヤシも、シャキシャキしてやがる。バカみたいに
さあ、そうこうしている間に洗濯機が止まり、第一陣を脱衣場兼物干し場に干す。次の洗濯物を回しながら、薬草の収穫と栽培。ここで一回、役場に顔を出しておくか。
役場には、村人の姿があった。最初にベランダに顔を出した時に村人に見つかったので、彼らは役場でスタンバイしていたらしい。いや、顔を出すってそういう大袈裟なことじゃなくて…。
「ユート様!お待ちしておりましたぞ!」
ホールに
「ささ、皆の者!ユート様からの有り難いお言葉だ!」
「だから、そういうんじゃなくて!…えーと皆様、おはようございます。お集まりいただいて非常に心苦しいんですが、以後こういうのは無しにしていただいて、皆さん普通にお仕事や生活していただければと…」
「「「おお!」」」
一面のスタンディングオベーション。どうしてこうなった。
俺はその場で解散を宣言し、アレッサンドロさんとベニートさんに以後こういうアレは止めていただくようにお願いした。部屋着にパーカー、ワニのマークのサンダルで、場違い感が半端ない。
その後は二階の村長室で。部屋は早速それらしく装飾されていた。狼の紋章の入った、年季の入ったフラグ。そして、木のビーズで作った精緻な
「改めまして我ら一同、どれだけあなた様の来訪を待ち侘びたことか…」
「ユート様…」
二人はおよおよと
「…さっき作ったんですが、食べます?」
小分けにしたフードコンテナを1つずつ、割り箸を二膳。そして第三のビールを1缶ずつ。もうコイツらにはこれでいい。
「おお!ピーマンがこれほどまでに!!」
「この白い野菜は、豆の芽…なるほど興味深い!!」
ゴッゴッゴッ。人の酒だと思って水のように飲みやがって。お代わり出してやんねぇぞ。
「ええとそれから。先日申し上げました、三人のお嬢さん方にお願いしたかったことなんですけど」
俺は本題を切り出した。彼女らに最初に提示したのは、以下の項目。
【要望を聞きたいこと】
・村のレイアウト
・帰る前に作っておいて欲しい作物
・今ここには無いが欲しい食材
【要望したいこと】
・食材の下ごしらえと調理の補助
・引き続き、周囲で採れる新しい作物の入手
このうち、調理補助について当面はセルフで、ゆくゆくは飲食店の開業を待つとして。要は、俺と住民との意思疎通の橋渡しをして欲しいのだ。
「砂糖と油については、原料になる作物と製法を調べてきました。今すぐに調達は出来ませんが、手に入り次第こちらで栽培を始めますので、活用していただければと」
「何と!砂糖などと、そんな高級な…」
製法を調べた限り、そう簡単に作れそうにはないが、こちらにも無いことはないのだろう。頑張っていただきたい。
言わずもがなだが、この世界、ゲームの仕様とは少し違う。まず住人。ゲームの中では非常口のアイコンみたいな形でしか表示されず、獣人だなんてどこにも表現されていなかった。そして作物。ゲームでの登場順どころか、ゲーム内に存在しないものも栽培できている。薬草とか。ならば、商業施設だってイレギュラーがあってもいいはずだ。パン屋や酒蔵の設備で、精糖工場や製油工場に転用出来ないだろうか。
そして俺は、これらの意思疎通の橋渡しをあの三人娘にお願いしたかったのだが。
「そんな…あれらはユート様の不興を買った者たち。良いのですか」
「不興もなにも、普通に働いてもらえればそれで」
既成事実とか嫁入りとかは、無しにしていただいて。
三人は、もじもじとバツが悪そうに入って来た。
「ユート、こないだは悪かった」「申し訳ありませんわ…」「ごめんなさい」
「もういいよ。君たちの職場を別に用意しなかった俺も配慮不足だった。ここで働いてもらえるなら、俺としても有り難いから」
「「ユ”ード様”ァ”!!」」
何でオッサンが泣いているのか。
「そういうわけで、この間言ってた仕事、よろしくな。あ、これバイト代」
俺は三人にそれぞれ、100均の包丁とよくある砂糖を1つずつ手渡した。
「「「「「砂糖!!!包丁!!!」」」」」
五人ともテーブルに釘付けになった。え、そこまで?
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