第29話 村役場建設
酔っ払いの相手も面倒になってきたので、とりあえず表に出て果樹園を移動。さっさと村役場を建ててしまう。
『村役場を建設しますか? はい いいえ』
逆三角アイコンに向かって『はい』をタップするだけで、二階建ての集会所が建った。費用は10,000コイン、スペースは20メートル四方、畑4枚分。俺とオッサン二人が早速探検に入ると、村人もぞろぞろと集まってきた。
中は入ってすぐ、カウンター。後ろに事務スペース、机と椅子が4組。簡単な水回り。奥にはバスケットコート1面分くらいの広間、小さいステージ付き。二階には2部屋、1つは村長室と見られる応接間、もう1つは会議室。シンプルな家具付き。階段裏と各部屋のデッドスペースが収納になっている。おお、小っさいけど最低限の機能は揃っている。
「ここが、お二人と娘さんがた三人の職場になります」
「「おおおお!」」
オッサンは興奮している。特に2階の村長室に。
「で、村長はアレッサンドロさんでいいですかね」
「いやいやいや!私のような若輩者では…」
そう言いながら、彼は正面のデスクに座り、まんざらでもなさそうだ。それをベニートさんが、愛想笑いしながらジト目で見ている。
「まあ、べニートさんは当面副村長ということで。一定の任期で交代されてもいいですし、選挙で決められてもいいですし」
「そ、そうですな!わはは!」
「選挙、そう選挙ですな。わはは!」
見えない火花が散っている。選挙ならば、人口の多い栗鼠族の方が有利かもしれない。
「とりあえず、この建物の活用については、村民の皆さんで決めてください。俺は時々ここに顔を出しますんで」
「ユート様、何から何まで」
「ありがとうございます!村民で有り難く使わせていただきます」
そんなこんなで、俺は役場を辞去してきた。
改めて、自宅に帰って畑仕事だ。大分時間をロスしてしまった。まあいい。ここには純粋にのんびりしに来ると決めたんだ。焦らずに行こう。
とりあえず、ナスを植える。麻婆茄子が俺を呼んでいるのだ。ああ、ピーマンも買っておけばよかったな。青椒肉絲の素とか売ってたもんな。それから、モヤシって栽培出来るんだろうか。どんな高級な農作物でもタダで殖やせるんだけど、やっぱりモヤシは庶民の味だ。欠かせない。
ナスは10分で出来た。後はいつも通りに薬草を植えて放置。洗濯機が止まっているな。タオルを干して、室内乾燥を掛けておく。それから、麻婆茄子の素の出番だ。ハンバーグとは別に取っておいた挽き肉をナスとともに炒め、調味料を絡めて出来上がり。くぅ〜ッ、いい匂いだ。たまらん。
オッサンたちに振る舞って、買い足して来たビールが早くも心許ない。まあ、あっちに帰れば21時、まだスーパーの閉店には間に合う。ビールだけでなく、いろんな酒を買って来よう。人生は、楽しむためにある。
しかし、中華ってどうしてこんなにビールに合うのだろうか。アパートに帰るまでは、もうこのアプリを終わらせようと思っていたのに、長風呂をして美味い飯とビールがあれば、この有様だ。俺って結構単純なのかも知れない。
そうだ。風呂と飯と酒。人生の目的が、この3つでもいいじゃないか。そう考えると、全てがストンと腑に落ちた。風呂、飯、酒。うん、いいな。
いい感じでほろ酔いの俺は、鼻歌を歌いながら玄米を炊き、冷凍ポテトを揚げた。ハンバーグの付け合わせのミックスベジタブルは、レンチンでバターを絡めたらOK。ああ、フライドポテトのつまみ食いは至高。しかもインベントリに入れておけば、いつでも揚げたてが食べられるとか。いや待てよ。それなら、ファミレスやファストフード店でポテトを注文し、こっそり収納すれば済む話じゃないか?確かに冷凍ポテトは安いが、揚げる手間と片付けが面倒だ。
何だかこうしていると、自分でも結構いろんな料理が作れるんだなって思う。ちゃんとした食事を作らなきゃと思うと身構えてしまうが、酒のアテを作るためならノリノリでキッチンに立ててしまう。徹夜明けでハイになっているのかも知れない。だけど今、確かに俺は楽しいと感じている。
時折二階から薬草を収穫栽培しつつ、最後に再び長風呂。たっぷりのお湯を溢れさせながら、ジャグジーに癒やされる。途中で入浴剤を持って来たことを思い出して投入してみたが、想像したような泡風呂にはならなかった。これはネットで調べてから、改めてドラッグストアで調達して来よう。
干しておいた洗濯物は、早くも乾きつつある。室内乾燥ナイスだ。次はハンガーを持って来て、一週間分の洗濯しよう。そうだ、あっちのシーツや大物を持って来てもいいかも知れない。
俺は薬草を収穫し、適当な野菜を植えて、ベッドに潜り込んだ。
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