第28話 有給バカンス
さて、
【急ぎ】
・
・焼肉のタレ
【週末】
・砂糖
・3人分の食器
・包丁
今回はそれに、カレー粉、料理の素を買い足して来ようと思う。いや、まずは本屋だ。前回も失敗した。オーブン料理とかアウトドア料理もいいが、一人で楽しむという点では、簡単なつまみの作り方とか初心者用の料理本とか、そういうのの方が役立つかも知れない。まずはそっちだ、ヨシ。
最近の料理本は、よく出来ている。テレワークも増えたことだし、自炊って流行ってるんだな。材料を入れてレンジでチンするだけで、パスタや煮物、ご飯ものからガッツリおかずまで作れるらしい。あっちでコンセントが使えるなら、こういうのもやぶさかではない。よし、ゲットだ。
次に、料理本を立ち読みした中で、作りたいと思ったものの材料を。まずハンバーグを食いたいから、ひき肉とパン粉。それから、付け合わせに冷凍ミックスベジタブル。あ、フライドポテトも食いたい。ゲットだ。あと、料理の素は…回鍋肉、麻婆茄子、青椒肉絲、八宝菜…うお、中華だけでバカみたいにある。他にもガリバタ醤油炒め、白菜のうま煮、もやしのにんにく醤油炒め、それからそれから。いかん、しばらく自炊という発想が無かったため、完全に時流に取り残されている。とりあえず麻婆茄子と回鍋肉、ガリバタ醤油炒めの素、それから茄子も買っておく。一回買えば、あっちで無限に殖やせるのが有り難い。絶対ビールに合うだろう。そうそう、砂糖と焼肉のタレとカレールー、鶏肉を買うのも忘れずに。俺はゴロゴロのチキンカレー派だ。
そして最後に100均へ。包丁は、彼女らとの約束だったからな。一応バイト代は払っておかねば。そして来客用の食器は迷ったが、これからも来客が無いとは限らない。一応、皿、ボウル、カップとフォークとスプーン。これらを5組用意した。あと、泡の入浴剤。特別にジャグジー用というわけではなさそうだが、一応あった。まあ、100均なので品揃えはそこそこ。今度ドラッグストアを物色しよう。
さて、買い物から帰って、次に思案するのは大型家電だ。洗濯機、これはもうあっちに持って行ってしまおうと思う。平日は帰りが遅くてほとんど使わず、結局週末のコインランドリー頼みだ。炊飯器は今回も活躍予定。今回は電子レンジも追加だ。
冷蔵庫は…これはまだ保留。家中の家電の中で、コイツが一番電気を食うという話もあるが、こっちでも普通に使うし、保冷保温機能はインベントリにも付いているからな。
後は、使い尽くされたシャンプーにコンディショナー、ボディーソープ。髭剃りとかはどうしようか。一応旅行用を持って行っているが、最近はあっちで身支度を済ませることが多い。埃を被った洗濯用洗剤も、残り少ないな。これらもまた、ドラッグストアで物色して来るか。
とりあえず、思いつくものを全てインベントリに詰め込んで、ベッドに潜る。信じられるか?こちらはまだ金曜日だ。午前3時を回って仕事を終えた時、正直上長には軽く
自分の感覚から言って、風呂はさっき入ったとこ。今回は、洗濯機の設置から行こう。水道栓にコンセント、アースまである。この排水管はどこに繋がってるんだ?考えても仕方のないことは放棄し、あっさりと設置完了。一週間分の洗濯物を、小分けにして洗っていく。ああそうだ、ハンガー忘れてた!危ない危ない。ハンガーが要らないタオル類からか。週の半ばの分までは、狼娘に破られてしまった。予備はあるが、買い足しておかなければな。
農作業をしたいところだが、見つかったら面倒なので、そのまま料理へスライド。茄子は畑で殖やすので後回し、回鍋肉とガリバタ醤油炒めってのを作る。これで
ハンバーグは、材料をこねて整形し、調味料とともに電子レンジへ。本当にこんなんで出来るのか?ヤバいな。ひき肉はちょっと取り分けておいて、後で麻婆茄子だ。
こないだキャベツを切っておいたから、炒め物はあっという間に出来た。順次コンテナに小分けして行く。ハンバーグもいい感じだ。すぐに食べようとして、付け合わせが出来ていないのに気付く。一旦、耐熱容器ごとインベントリへ。ああもう、この回鍋肉とガリバタ醤油炒めの匂いがたまらん。早速二階に持って行って、作業しながらビールだ。
調理器具をザッと洗って、満を持して二階へ。ベランダの掃き出し窓を開け、朝のいい空気を肺一杯に吸い込み、さあ、ガリバタ醤油炒めから行くか…と思った矢先。
「おい、ユート様だぞ!」「ユート様だ!」「ユート様がおいでになられた!」「ユートさまぁあ!」
激しい既視感。まあ、そうなりますよね。
間を置かず、玄関が慎ましやかにノックされた。外には、憔悴したアレッサンドロさんとベニートさんが。玄関先で立ち話も何なので、リビングに通す。
「「この度は、誠に、誠に申し訳なく…」」
大柄なオッサンたちが小さくなってるのが、なんともいたたまれない。
「顔を上げてください、お二人とも。どの世界においても、政略結婚はよくあることです。俺も理解してます。俺に怒りとかそういう他意はありません」
「それでは…」
「繰り返し申し上げますが、俺は他人と同居するのが向いてないみたいです。誰しも生きてりゃ大変だし、ストレスもありますけど、家の中でまで他人に気を遣うのが耐えられなくて。俺の方の問題です。申し訳ない」
「そんな、ユート様」
そう言いながら、彼らの目はチラチラと泳ぎ、時折鼻がヒクヒクしている。ああ、さっきまでガリバタ炒めと回鍋肉作ってたもんな。———仕方ない。
「あの、さっき作ったんですが、食べます?」
「おおお!これはなんという…!!!」
「あ、どうですか、もう一杯」
「
せっかく作った回鍋肉にガリバタ醤油炒め、そしてとっておきのビールが、秒で無くなっていく。だけど気持ちは分かる。美味いもんな。
「それにしても、夜明け近くまでお仕事をなさっているなんて…ユート様は何と勤勉な方なのか」
「いやまぁ、勤勉と言いますか、やるしかないといいますか…」
「分かります!分かりますぞ!気がつけばいろんな役割が自分の肩に乗せられていて、身動きが取れないそのお気持ち!」
なんだか朝からリビングが新橋の立ち飲み屋のようだ。おかしいな、ここのところ会社の飲み会は回避しまくってたはずなんだが。
「———俺、こっちでこういう楽〜な生活を送りたいんですよ。仕事帰りにフラッと立ち寄って、何にも縛られず、ゆっくり風呂に入って、美味いモン食って、美味い酒飲んで。お嬢さん方は魅力的ではあるんですが、こう、俺が求めてるのはそういうんじゃなくて」
「分かります!分かりますぞ!あの風呂という奴は、誠に良いものです!」
「我らはユート様のお望みを見誤っておりました。上に立つオスというのは、丈夫な子を産める若い
いや、お前らじゃじゃ馬を押し付けただけだろ。
「俺が欲しいのは、飲食店。それから娯楽施設。これらの料理は、向こうの世界から持ってきた調味料で作ったものですが、いずれこちらで飲食店が開業したら、同じようなものを料理人に作ってもらおうと考えています。それからビール。これも、人口が増えて酒蔵が進化すれば、いずれ作れるようになるでしょう。そして、風呂。宿屋や銭湯が出来れば、もっと大きな風呂でリラックス出来るようになるはずです」
「「なんと!!!」」
ああ、今になってようやく、彼らと正しく意思疎通が図れた気がする。仕事と同じだな。いくら仕様書を並べてああだこうだと詳細を詰めたとしても、結局は一杯やって意気投合した方が、ずっと話が早い。接待や飲ミュニケーションが
とりあえず、俺の家と住宅街の間にある、北西の果樹園。これを東側に移し、ここに村役場を建設する。役場と言っても、屋根のある集会場というか。ここに、例の三人娘に常駐してもらいたい。俺はこっちに来るたび、出来るだけ顔を出すようにするから、俺の要望は彼女らに伝え、村の要望は彼女らにまとめてもらう。こういうのはどうだろうか。
「ユート様…我らのために”ィ!」
「ユ”ード様”ア”ァ!!」
ああもうその泣き上戸、やめてくんねぇかなぁ。
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