第23話 降って湧いた話

「単刀直入に申し上げましょう。ユート様、私共わたしどもの娘をめとって頂けませんか」


「めと…ッ?!」


 はぁ?!何言ってんの、このオッサンたち。


「無礼は百も承知です。ですが聞き入れて頂くわけには」


「ちょ、ちょ、待って。アプリにそういうシステムは」


「「あぷり?」」


 いや、こっちの話。


「いやちょっと、その、急な話で、何言ってっか…ハハッ」


 興奮気味なアレッサンドロさんとは対照的に、ベニートさんは気落ちした様子だ。


「それはそうでしょう。なんせ我らは、族長が無礼を働いた民。そんな横暴な群れの娘を、娶っていただくなど…」


「いやそういうことじゃないから」


「ではやはり、既に奥方やお子様が…?」


「いやそういうことじゃないから!」


 ダメだ、この人勝手に突っ走るタイプだ。アレッサンドロさんとは違う方向に。


「それでは何がいけないのでしょうか。強きオスがメスを娶る。至極当然かと存じますが」


「いや、まだお互いのこと何も知らないのに、勝手に縁談を持ちかけられましても!俺ももういいオッサンですし、相手の女の子も可哀想でしょう」


「何をおっしゃいます、ユート様。我らの間では、誰がユート様に嫁ぐか、毎日その話題で持ちきりですぞ」


「そうですよ。未婚の女は皆、ユート様に嫁ぐのだと張り切っております」


「ええ…」


 天狼族と栗鼠族、お前らそれでいいのかよ…。


 二人に一人、多勢に無勢。その後は俺の抵抗も虚しく、どんどん話が進んで行った。まず、適齢期の未婚の女性は天狼族が一人、栗鼠族が二人。他は結婚もしくは婚約済みで、この縁談であぶれてしまう可哀想な男はいないらしい。一夫一婦制の人間族の慣習にならい、誰か一人を選んでもらっても構わないが、出来れば各種族から一名ずつ、願わくば全員娶ってもらえると有り難い、とのこと。


「えー…もし俺が結婚しないと、どうなるんですか」


「その場合は、力のあるオスの第二夫人、もしくは後添え。それか、子供たちが成長した後に年の差婚、でしょうなぁ」


「ちなみに当然ですが現在、ユート様以上に力のあるオスなどおりません」


 ええ…。そんなこと言われましても…。




 この際だから、俺は自分がどうしてここにいるのか、一から説明することにした。俺は異世界でしがないリーマンをやっている、くたびれたオッサンだ。嫁どころか出会いすらない。ゆえに、結婚などこれっぽっちも考えていなかった。ひたすら会社と家との往復で、考えられるような余裕もないしな。


 こちらに来られたのは、このスマホのアプリゲームのお陰。あっという間に作物を実らせたり、家を建てたりする力もだ。だから俺自身には、特別な力など何もない。俺はあちらの世界から毎日この世界に遊びに来ているが、こちらとあちらでは時間の流れが違うようだ。しかもいつ何時なんどき、この世界に来られなくなるか分からない。そんな俺が、こっちの世界で奥さんなんか娶っても、ちゃんと養い切れるか自信がない。


 どや。この完璧な断り文句。「あー、弊社としましても、その案に乗じたいのは山々ですが」というヤツだ。しかし彼らには通じなかった。


「なんと!まだつがいはいらっしゃらないと!それは僥倖!」


「いずれユート様がこちらに来られなくなるのであれば、何が何でも子孫を残して頂かなければ!」


「こうしてはおれん、早急さっきゅうに話を進めるぞ!」


「あっ、おい、ちょっ」


「いやあ、意を決してご相談に伺って、本当に良かった!それではユート様、娘たちを末長く」


「宴の準備をしませんとなぁ!」


 聞けやオッサンども!!


 彼らは二人して上機嫌で出て行った。一人取り残された俺は、仕方なく薬草を収穫し、頭を掻きながら風呂へ向かった。




「「「ユート様♡」」」


「んごァッ!!!」


 風呂から上がった俺を待ち構えていたのは、妙齢の女の子たち。ちょっ、田舎は家に鍵を掛けないって言うけど、勝手に入って来るとか…


「何だ、水浴びするなら言ってくれよ。背中くらい流すのによ」


「殿方の下着姿を見てしまうだなんて。これはもう、責任を取って貰っていただくしか」


「姉ちゃん、いっつも父ちゃんや弟の見てるし」


 上から順に、天狼族の娘さん、そして栗鼠族の娘さん×2。ああ、彼らがこうも早く実力行使に訴えて来るとは。俺は彼女らにリビングで待ってもらうように伝え、タオルで髪を拭いて部屋着を着た。ドライヤーも持って来なければ。


「あー、えーと、とりあえず自己紹介を…」


「あたいはアニェッラ。年は16」


「私はビビアーナ、14歳。そちらのベルティーナとは双子ですわ」


「です」


「ぶっ!!!」


 みんなUアンダー18!犯罪じゃないか!


「やだなぁユート。15で成人なんだから、みんな13か14にはつがってんだろ」


「ですわ」「です」


「いやいや、俺の住む国では18歳以下に手を出すと捕まっちまうんだよ!」


 3人は、「人間族って変なの」「ネー」とか言ってやがる。


「君たち、気持ちもないのに、知らない男の家に押しかけたりしない!もっと自分を大事にしなさい」


「何言ってんだよ。こんだけの村、一瞬で作れちまうオスなんか、そうそういやしねぇだろ」


「そうですわ!乗るしかありません、玉の輿に!」


「おー」


 ダメだ、コイツら。さっきのオッサンたち以上に話が通じない。


「とにかく!天狼族や栗鼠族の皆さんと仲良くしたいのは山々だが、俺は18歳以下の子供に手を出す気はない。さあ、お家に帰りなさい」


「えー、18なんてき遅れじゃん!」


「そうですわ、私たちが売れ残りの烙印を押されてもいいと?!よよよ…」


「よよよ」


 おい最後の、棒読みにも程があるぞ。




 彼女らは引き下がる様子を見せない。ならば、こちらもある程度譲歩を見せるしかあるまい。


 前回こちらに来た時のメモが、手元にある。俺は村人の要望を聞いたり、俺の要望を伝えたりする橋渡しが欲しい。そして、料理の下ごしらえ、出来れば調理を任せられるアシスタントも。いきなり嫁ぐとか娶るとか、そういうのは置いておいて、まずはうちでバイトしてくれるなら有り難いんだが。


「なんだ、そんなことか」


「分かりましたわ、お任せください!」


「懐に入り込んでから既成事実を作る。問題ない」


 おい最後の、聞こえてるぞ。


 そういうわけで、俺の家には3人のバイトが出入りすることとなった。

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