第18話 ブドウ畑を増やそう

 その日、俺はひたすら薬草を育てて料理を作った。作ったと言っても、肉と野菜を炒めたくらいだが。味付けは、塩胡椒か焼き肉のタレ。マンネリだな。何か「〇〇の素」みたいなのを買っておいても良かったかも知れない。オーブンの方は、スキレットにキノコとニンニクとオリーブオイル。これが良いつまみになって、もう1回作った。まだオーブン料理は発展途上だ。追々おいおい慣れて行こう。


 さっき、パン屋でパンをもらった。ナンみたいなピザ生地みたいな、すごく素朴なヤツ。よく考えたら、こっちには小麦粉以外にロクな素材がないかも知れない。パンって何が要るんだろう。牛乳?バター?しかし、牧畜の開放はもっと後だ。それまでにそれなりのパンが食べたければ、あっちで材料を買って来るしかないのでは。しかしそれでは、あまりにコストが掛かり過ぎる。牧畜開放まで待つか。


 そういえば、こっちにはタンパク源がないな。肉はもっと後として、大豆か?しかしこっちの人に、豆腐作りとか難しいのでは。ゲームでは、豆腐屋とか醤油とか出て来なかったし。


 そうだ、卵。牧畜と一緒に養鶏場が開放されたと思うが、卵を持って来たら作れないだろうか。うわ、全然考えてなかったな。やっぱり有精卵とか、お高い奴が必要だろうか。これは帰ったら早速スーパーに行ってみよう。




 それにしても、コインが三次元で取り出せるとは知らなかった。俺だって、この世界はスマホの画面でしか触ったことがないからな。家の中の設備でコインを使う時も、『投入しますか?』で『はい』を選ぶだけだ。俺も取り出せるのか?


 俺は初めてコインをタップした。すると『取り出しますか?』と出て来る。コインの額を指定すると、『取り出し先 未登録』。『?』アイコンをタップすると、『銀行口座の登録がありません』と。確かに、このゲームは無課金で遊んでいたから、登録も何もしていない。いや、何故俺だけコインが取り出せないんだ?プレイヤーとNPCの違いか?まあいい。口座を入力しないと進まないなら、あっちで登録してしまおう。


 ブドウはすくすくと育っている。こいつも8時間で収穫のヤツだ。早速村人が群がっている。ちょっと時間はかかるけど、こっちで8時間過ごして、殖やしてから向こうに戻るか。


 ブドウ畑を拡張するの、どれくらいがいいだろうか。ブドウは2粒で畑1面が出来上がるが、現在畑を拡張するのに1面20万コイン必要だ。こっちの1日あたり、1面か2面の拡張がせいぜい。それもこれからどんどんインフレしていく。今ある畑を減らすと、コインを稼ぐペースが落ちてしまうし。なかなか難しいところではある。今後農村とは名ばかりで、商業施設からの収入が増えて行くんだが、今がちょうど端境期はざかいきで、運営に頭を使うところだ。しばらく他の果樹を植えるのは控えよう。一度植えればずっと収穫できるというメリットはあるが、逆を言えば畑のようにテンポ良く輪作してガッツリ稼ぐのには向いていない。


 薬草を育てるのも作業になってきた。ちょっとつまらない。料理だってそんなに得意じゃないし、買って来たフードコンテナもいっぱいだ。することがなくなり、ダラダラとチューハイを飲みながら、優雅に風呂。あっちじゃ時間に追われて、手洗いだって満足にのんびり出来ない。そうだ、こういうところでのんびりするならゲームか。ゲームの中でゲームをするのもどうかと思うが、携帯機くらいなら、次のボーナスで考えてもいいかも知れない。ボーナスがあれば、だが。


 そうこうしているうちに、やっとブドウがった。俺は近くの畑を5面潰して合計6面のブドウ畑にし、東側に移動した。村人は歓声を上げて、それを追いかけて行った。これまで食うや食わずで娯楽のない生活をしていたのだ。その気持ちは分からなくもない。俺は歓喜する彼らの背中を眺めながら、戸締りをして、ベッドに潜り込んだ。卵、銀行口座、よし。おやすみなさい。




 アラームの音で目が覚めた。こちらはまだ日曜日の19時。この世界に来られるようになったのが水曜日、そしてあっちに渡ったのは6回。時間の感覚がおかしい。しかし、1日の半分を向こうののんびりした時間の中で過ごすと、こっちで時間に追われてせかせか生活しているのが嘘のようだ。


 ちょうどタイマー炊飯しておいた玄米が炊けている。しかし、フードコンテナは使い切ってしまった。再びスーパーと100均に出陣しよう。19時だ、まだ舞える。俺はコートを引っ掛けて、寒空のもとへ繰り出した。

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