第17話 ブドウの植樹

 いつものことながら、こちらは快晴。アレッサンドロさんが、ここは見限りの大地と呼ばれ、恵みの少ない場所だと言っていたが、天気が良すぎるのかも知れないな。しかし俺が村を作った場所は一面草原で、そんな風には見えないのだが。


 南向きの掃き出し窓を開けると、向こうで住民が畑仕事をしている。俺に気付くと、陽気に手を振ってくれるのが嬉しい。


 俺の家が村の北にあって、北と西は森林に囲まれている。西は住民たちの居住区、北西には果樹園。村の中央に畑があり、住民には2人につき1面の畑を貸し出し中。その他は、俺がアプリゲームよろしく作物を植えては収穫している。住民は、もっと畑を貸してくれとは言わない。なぜなら俺は帰り際、毎回自分の畑に適当に作物を植え、俺がいない間に適当に取って食ってくれと伝えてあるからだ。住民が手入れする畑は、普通の畑同様、作物はゆっくり育つ。馬鹿みたいなスピードで作物が育つのは、俺が畑を操作した時だけだ。


 村の東と南は草原が続き、面積を拡張するならこっち方向。ただし東はゆるやかな丘になっていて、畑にするには不向きかも知れない。以前ゲームでは、ここに果樹園を作っていた。今回も、ここにブドウ畑を作ろうと思う。


 まず目の前の畑に、カットフルーツのブドウを植える。一粒で一本、畑1面で2本。ちゃんと植わった。ならばこのブドウが植わった畑を、編集機能で丘の上に移動させるだけだ。新入りの栗鼠リス族たちは目を剥いて見ていたが、天狼族たちは慣れたものだ。今度は何が植わったのかと、興味津々に眺めている。ああ、たった2本では少なかったかな。だけどブドウ一房、びっくりするほどお高いんだ。カットフルーツには3粒しか入ってなくて、畑を1面しか作れなかった。一旦こっちで収穫してから改めて殖やすので、許して欲しい。


 他のカットフルーツはというと。パイナップルとメロンは、野菜みたいに畑に植えられそうだ。パイナップルもメロンも好きだが、特にパイナップルは、切るのが面倒そうだ。それからキウイ。これは果樹になるようだ。よし、2本くらい生やしてしまおう。半分に切ればスプーンで掬って食べられるからな。てか、フルーツの切り身でもちゃんと栽培出来るんだな。種が入っているからだろうか。




 そんなことをしている間に、またアレッサンドロさんがやって来た。


「実はご相談したいことが」


 彼に連れられてやって来たのは、パン屋。もうぼちぼちと稼働していて、中では素朴なパンが焼かれている。パンというよりは、ナンというべきか。中では天狼族と栗鼠族の女性が、せっせと生地を窯に出し入れしている。


「おかげさまで、こうしてパン屋を開店することが出来ました。村人も大変喜んでおります。しかし…」


 彼が指差したのは、カウンターの隅に積み上げられたコイン。パン屋を開店して以来、さあ店を閉めようという段になって、気がついたらコインが置いてあったと。このコインは近隣に流通しているどのコインとも違い、誰が置いたかも分からない。そして日に日に増えているそうだ。


 コインだ。ゲーム内で流通しているヤツ。三次元で初めて見た。てか、これ取り出せるんだ?


 そして次に見せられたのが、店のあちこちにあるコインスロット。


「まるで入れてみろと言わんばかりでございます。しかし、価値のありそうなものを勝手に触るわけには参りません。是非ユート様のご判断を仰げればと」


 流石天狼族、義理堅いな。てか、各店舗をタップして収穫出来るコイン、手に入るのは俺だけじゃなかったんだ。パン屋を開店して3日目、俺が手に入れた額とここに出現した額は同じ。ということは、商業施設の収入は、五公五民ってことだ。


「あー、このコインはみんなで相談して使ってくれ」


 俺は、コインスロットの機能について説明した。窯に投入すれば薪要らず、シンクに投入すれば蛇口から水もお湯も出る。


「「「おお!(まあ!)」」」


「他にも、トイレや照明や。それから、これを貯めるとみんなの家にもこういう機能が付いて、コインで便利に暮らせるようになる」


「「「おお!(まあ!)」」」


 アップグレード分くらい、俺が持ってもいいんだけどな。まあ、労働に対価が得られるなら、勤労意欲も上がることだろう。そしてそれ以上に、今の俺にはコインが必要だ。ブドウ畑を作るため、コインを投じて畑を拡張しなければならない。


「それより、ブドウを植えたんだ。一度収穫したらもっと殖やすから、今度は酒蔵の方もお願いしたいんだが」


「「「酒蔵にございますか!!!」」」


 それから先は、蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。栗鼠族移住の時の比じゃない。村長は伝令を走らせ、狩猟班や採集班まで呼び戻され、村の広場で全村民会議となった。何この盛り上がり。今更、ワインに適したブドウかどうか分からないなどと言えなくなってしまった。


 とりあえず、村民の役割分担とかそういうのは、彼らに任せてしまおう。俺は自宅に戻り、チューハイを開けながら、料理作りに勤しんだ。作り置きを沢山作って、明日から再び始まる社畜生活を生き延びなければ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る