第16話 コメの栽培

 さて、改めて自宅に戻り、掃き出し窓から畑の手入れ。コメの栽培だけど、白米からでも育てることが出来た。しかし、玄米の方が育成時間も短く、品質も高い。次からは、玄米を栽培して殖やそう。


 コメの育成時間は1時間。麦の2分に比べて、格段に長い。その代わり、収穫量と売価は高かった。そもそも、これもゲームに登場しない作物だ。西洋の農村をイメージしたゲームの世界に、突然水田が出現するシュールさったらない。


 収量は、10m四方の畑(田んぼ?)1枚で5キロ。売価は100コイン。束で収穫できる小麦と違って小分けにはならず、なぜか袋詰めされている。俺一人、5キロもあれば一ヶ月は余裕で持つ。なお、脱穀済みとはいえ玄米の状態だった。これ、どうすればいいんだろう。炊飯器には玄米モードがあるし、畑に作付けするには玄米の方が有り難いんだが、食べるなら精米した方がいいかな。コイン精米機って、アパートの近くにあっただろうか。


 ほうれん草、小松菜、水菜、ネギ、ブロッコリー、ニンニク。これらも問題なく育った。育成時間も売価もそこそこ。そして次のコメを育てている間に、料理の仕込みだ。ほうれん草は洗って刻み、ベーコンと一緒に炒めておく。ブロッコリーは、ニンニクと一緒にスキレットに入れてオリーブオイルに浸けて、オーブンへ。ネギも美味いらしいな。同様に突っ込んでおく。


 水菜は、洗って刻んでそのままインベントリへ。こないだ作ったレタスやミニトマトと一緒に、皿に盛り付ければあっという間にサラダだ。小松菜はどうしよう?ええい、全部洗って切ってインベントリに突っ込んでおけ。そのうち野菜炒めにでも入れればいいだろう。途中で下ごしらえに飽きたので、売ってコインに変えておく。どうせいつでも殖やせるしな。


 あっちの昼前にこっちに来て、腹が減った。来ていきなり、栗鼠族問題だったからな。ほうれん草ベーコンをつまみにビールを開けながら、のんびり畑仕事。主力商品は、未だに薬草だ。




 そういえば、果樹園。バナナがたわわにっていた。一躍いちやく住民に人気のおやつとなったようだ。リンゴとミカン同様、大分スカスカになっていたので、綺麗に収穫してしまう。全部収穫したら、また生るからな。果樹だけじゃない、キノコも同様だ。原木からキノコを収穫して、やっと思い当たる。アヒージョといえば、キノコが定番じゃないか。失敗した。スキレットは2つしかないから、また今度だ。100均で買い足して来るべきか、それともフードコンテナを用意して調理済みの料理を収納してしまうべきか。


 改めて、雑誌やレシピ本を眺めながら、キャンプ飯やオーブン料理について目を走らせる。特別難しい技術は必要なさそうだ。ただ、下ごしらえが面倒臭いだけ。だがそれも、一旦切ってインベントリに放り込んでおけば、いつでも調理出来るってことだ。


 いや待てよ、パン屋も開店することだし、下ごしらえや調理を住民に頼んだらどうだろう。そもそも、あとちょっと村を大きくすれば、宿屋や飲食店も開業できたと記憶している。いっそそこに食材とレシピを持ち込めば、もはや自炊の必要すら無くなるのでは。


 そして、栗鼠族を迎えて解放されたものは、酒蔵とパン屋以外にもある。農家の住宅(中)もその一つだ。薬草が育ったら、うちをアップグレードしなければ。あと、道路や簡単な公園も作れたはずだ。ああ、やれることがどんどん増えていく。


 俺はオーブンで焼き上がったネギとブロッコリーをテーブルに乗せ、次のビールを開けた。




 さて、そろそろ陽が傾き、肌寒くなってきた。農村でやることも無くなったし、一旦あっちに帰ろう。向こうでやるべきことは、ブドウの調達、それから精米機が近くにないか調べる。そうだ、玄米を炊いてインベントリに入れとくのもいいな。料理を小分けにして保存するフードコンテナがたくさんいる。ビールの補充もしたいところだが、贅沢すぎるだろうか。発泡酒?いや、酎ハイか。ここのところ野菜はいっぱい食べてるんだが、つい非日常にたがが外れて、酒量が増えている。健康にもお財布にもよろしくない。


 ちょっと反省しながらベッドに潜ると、次に目を開けば見慣れた天井だ。うん、ちゃんと14時に帰って来た。あっちに時計は置いてないから正確な時間は分からないが、今日は時間を得した気分。


 向こうの世界から戻る時には、こちらから持って行ったものは、毎回全て引き上げている。この不思議な現象が、いつ終わりを迎えるか分からないからだ。しかし、時計くらいは置いてもいいかも知れないな。


 俺は早速、農村で殖やした玄米を炊飯器にセットした。炊飯器を使うなんて久々だ。安いモデルだが、玄米を炊く機能があってよかった。そういえば、五穀米を育てて来なかったな。まあ、野菜がたっぷり採れるのだから、コメで栄養を摂る必要はないかも知れない。


 玄米を炊いている間に、再びスーパーと100均に出陣。この時期でもブドウが置いてあるのは流石だ。めちゃくちゃ高いけど。ワインにする品種とは違うかも知れないけど、とりあえずこれで…あ、カットフルーツがあるな。ブドウ一房よりずっと安い。ブドウも数粒入ってる。もし一粒から栽培出来るなら、こっちの方がいいのでは。俺は財布と相談した結果、カットフルーツに賭けることにした。しかし浮いた分はチューハイに化けたので、一勝一敗。


 100均では、小さなデジタル時計と、小型のフードコンテナを買い込んで来た。一応レンジ対応のを買えば、熱いおかずを入れても大丈夫だろう。100均に長居は無用だ、見るもの見るもの欲しくなる。必要なものをゲットしたら、とっとと退散だ。


 アパートに帰ると、玄米はまだ炊けていなかった。普通の炊飯より時間がかかりそうだ。待っている間、俺はコイン精米機の置いてある場所を検索してみたが、残念ながら都市部には極端に少ない。一番近いのが、電車を乗り換えてちょっと行ったところだ。一度コメを多めに生産し、休日に足を伸ばすしかないだろう。


 玄米が炊けたので、買って来たフードコンテナを洗って小分けにする。少し味見してみたが、意識高い系の定食屋で食べたのと同じだ。ちょっと癖があるけど、香ばしくて美味い。白米もいいが、しばらくは玄米で行こう。俺は次の玄米を炊飯器にセットした。


 少し迷ったけど、アラームは19時に設定。欲張り過ぎかも知れないが、帰って来てから「もう今日はいいかな」となったら、アプリを閉じて寝るだけだ。日曜日一日で、農村で何日も過ごせる。まるで連休じゃないか。どうせ明日から会社なんだ。今日くらいは、思い切り楽しもう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る