第10話 薪オーブン
今のところ、一番収益率が高いのが薬草。これは生育に1時間かかる。一旦畑に植えて、出来上がるまでが暇だ。俺は朝食を済ませて、少し散歩に出ることにした。
「ユート様、おはようございます」
村人が口々に挨拶していく。フレンドリーなのは有り難いが、なんか偉くなったみたいで、こそばゆいやら申し訳ないやら。畑も家も全部アプリの機能だし、俺がやったことといえばタップとスワイプだけだ。やがてリーダーがやって来た。もう彼は村長と呼ぼう。
「今回はお早めのご帰還。お帰りなさいませ」
こっちの時間では、2日ぶりだそうだ。前回は3日眠ってたって言われたし(つまり4日ぶり?)、規則性がよく分からん。
村長は、俺がいない間に採集した植物を取っておいてくれた。中には栽培出来ないものも含まれていたが、作れるものは後で殖やしておこう。特に果物はいい。俺がいない間、
村民からは、今のところ困ったことはなし。小川が思ったより好評で、小魚を獲るだけでなく、水浴びをしたり大物の洗濯をしたり、住民の衛生状態の向上に大きく貢献しているようだ。最初に出会った頃より、彼らは格段に清潔な身なりをしている。
逆に、俺の方に困ったことがないかということだが、キッチンで使う薪がないこと、そもそも薪で煮炊きしたことがなかったので、それが難点かな。そう言うと、すぐに薪と、キッチンの使い方を教えてくれる村人を手配してくれた。こないだ顔を合わせた、採集班のアニエッロさんだ。
薪オーブンの使い方は、中段で薪を炊き、下段でオーブン調理、上で鍋調理ってことらしい。採集班は、
そうこうしているうちに、チーンという
次の薬草を植えてから、俺は準備に取り掛かる。そう、こっちでやってみたかったこと。料理だ。
とはいえ、俺が作れるものなんか、たかが知れている。昨日も終電でコンビニ寄って帰っただけ、これといって具材も何もないがな。俺が作るのは、レトルトカレー。カレーとレンチンご飯を、お湯でぐつぐつやるだけだ。
待ってる間に、キャベツを井戸水で洗って切る。他にサラダに出来そうな野菜がないのでキャベツオンリーだけど、これで少しは野菜を摂れるだろう。ドレッシングなんて洒落たものは、男の一人暮らしには存在しない。明日買いに行って来よう。
———いや、待てよ。
森で採集して来た野菜が育つっていうことは、あっちで買って来た野菜も育つのか?
ゲームでは、畑が増えて住民が増え、レベルが上がってキャップが解放されるごとに、どこからか勝手に種や苗が手に入った。しかしここでは、住民が持って来た作物をそのまま育成したんだった。しかも、ゲームで入手出来た順ではなく、キノコなど中盤のものも含まれている。薬草なんかゲームに存在しない。なら、俺があっちから持って来たって、植えられるんじゃないか。ヤバい。明日、スーパーでいろんな野菜を爆買いして来よう。果物もだ。
俺は、レトルトカレーと共にザク切りキャベツをもさもさと口に運びながら、興奮に燃えた。
さて、散歩して昼飯を食ったら、もはややる事はない。早速暇つぶしグッズの出番だ。漫画は問題なく出せた。問題は、こっちでもスマホが動くかどうか。
結論から言うと、このアプリを起動しているスマホは、動かなかった。いや、アプリを閉じれば動かせるんだろうけど、それはあまりにリスキーだ。一方、お古のスマホは問題なく動いた。当然ながらネットは繋がっていないが、中にダウンロードした音楽、動画、電子書籍は難なく楽しめる。よし、これならタブレットを持ち込んでもいいだろう。もちろん、紙媒体も捨てがたい。久しぶりに雑誌をめくりながらコーヒーとか、アリなんじゃないか。
腹が満たされ、漫画を読みながらぼんやりと時間を過ごし、時々畑の収穫。そして今回初めて、催して来た。そうだ。ここ、トイレはどうなってる?最初に来た時、一応「あるな」と確認はしたが、どういう感じなんだろうか。
一見普通の洋式トイレだ。蓋を開けると、中は空洞になっていた。アレか、汲み取り式ってヤツか。しかし、どこから汲み取るんだろう。外にそんな場所あったか?
とりあえず、小用を足す。大きい方のために、ちゃんとペーパーを持って来なければ。そして手を洗おうとして、ふと気付く。水道?蛇口、どうなってんの?
それは視界の端、インターフェイスで解決した。水、トイレ、風呂。全部コインで賄えるらしい。キッチンの薪オーブンもだ。何だよ!早く言えよ!やっぱりここは、厳密にはアプリと違う世界のようだ。
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※2024.03.04
「後で薬局が出来たら、薬に加工してもっと高値で売れるんだけど。」この一文を削除しました。
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