第11話 風呂があったら入りたい

 とりあえず、風呂に入れるんだったら話は変わってくる。入るしかないだろう。そういえば、どんな風呂だったっけ。脱衣場、シャワー、そしてシンプルなバスタブ。うん、必要最低限だ。俺の家のユニットバスと、そう変わらない。だけど、異世界に別荘、そして昼から風呂。今、俺のテンションは爆上がりしている。


 インターフェイスでコインを消費、風呂に投入。蛇口をひねれば、湯も出るし水も出る。すごいな。こっちで風呂に入ったとて、あっちに戻ったら何も変わってないかも知れないが、こういうのは気分の問題だ。風呂の効用は、身体を清潔に保つだけでなく、血行促進とリラックス効果も大きい。しかも水道光熱費は、畑で採れた作物を変換したコインだ。タダ同然と言える。


 ざぶー。


 ふぅ。ガス代を浮かせるために、お湯を最低限にして体を折り畳んで浸かるような、そんなみみっちいことはしない。上限スレスレにたっぷり張って、体を沈めると溢れるやつ。ああ、生き返る。風呂って最高だ。インベントリに、旅行用品を入れておいてよかった。頭も体もじっくり洗って、超さっぱり。そうだ、長湯をするならやっぱりタブレットを買って、動画をダウンロードしておくべきか?それとも、ブックスタンドを用意して読書だろうか。湯気でふやけるのは勿体ないな。雑誌とかにしとくべきかな。


 それから、風呂上がりにはビールが欲しい。インベントリって、どうも時間停止しているようで、中に入れておいた野菜はずっと瑞々しいままなんだが、ビールは冷えたままこちらで取り出せるのだろうか。それとも、クーラーボックスを用意すれば?ああ、問題が山積している。それも全部、嬉しい悩みだ。


 そういえば、住人たちはみんな小川で水浴びで済ませてるみたいだな。彼らはコインを使えないんだろうか。そもそもあの家の中に風呂はあるのか?分からん。そういえば、ゆくゆくは銭湯とかスパが建てられるようになったはずだ。農村シミュレーション、その先は中途半端な都市シミュレーションっぽくなって行くんだが、農村が充実する→移住者が増える→更に充実する→更に移住者が増える、こういうゲームなのだから仕方ない。娯楽施設は、移住者を呼び込むためにある。そして、民家と畑以外の施設が建てば、税収が見込めるのだ。


 こうして考えていると、一体これは何ゲーなんだ。アプリを操作している時には、畑をスワイプすれば、作物がポポポポと収穫出来た。そして商業施設をスワイプすれば、コインがポポポポと収穫出来た。どちらも同じ感覚だった。だけど、こうしてこっちの世界に入り込んでみると、違和感が半端ない。


 さて、飯食って風呂に入って、いよいよやることもなくなった。まだ陽は高いが、睡魔が襲って来る。今回は、この辺でおいとまさせていただくか。俺は一応戸締りをして、掃き出し窓から住民に手を振ると、ベッドに飛び込んだ。


 そして次に目を開けると、そこは見慣れた天井。パイプベッドの上だった。




 どういう仕組みなのかは分からない。ただ、こちらで寝るとあちらの朝、あちらで寝るとこちらで起きたい時間に目が覚めるっぽい。アラームを掛けていたからだろうか。現在時刻は土曜の朝の8時。あちらで活動して来たにも関わらず、不眠感も疲労感もない。もっと言うと、体がサッパリしている。何なら髪も少し濡れている。あっちで風呂に入ったのが反映されているようだ。何て便利なんだ。


 さて、今日は目覚めたらやることがいっぱいある。まず農作物を買って来たい。野菜や果物を、スーパーで手当たり次第。それから、種とか苗とかはどうだろう。100均でも売ってたような。そして、タブレット端末に雑誌。料理をするなら調味料。ドレッシングなんかもいいな。


 今日一日で、全部買わなくてもいい。だけどとりあえず、作物の種類を増やしてレベルを上げ、建てられる建造物、オブジェなどを増やしたい。どんどん農村を発展させるぞ。楽しみだ。


 俺はトーストをコーヒーで流し込み、身支度を整えた。

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