第8話 農村の充実

 小屋が一軒家に変わり、村民たちは一瞬驚いたが、これまで散々畑作りや家を建てるのを見て来た彼らだ。「またユートが何かした」って感じで、日常に戻って行った。野菜類は好きなように持って行ってもらったが、家の食糧庫もいっぱい、風車小屋もいっぱいになったらしく、「当分は大丈夫」と言われた。俺は、7つの作物のうち、時間はかかるが一番収益性が高いカボチャに生産をシフトし、畑の拡張に努めた。


 住民の半数は、狩りと採集に出かけている。そのうち採集班が帰って来た。リーダーの長老(?)が彼らを呼びつけ、目新しい作物がないか確認する。


「えっと、ごめんなさい。畑で作るような作物はないんです」


 そう言って運んで来たのは、果物やキノコ、香草や薬草類。いいじゃないか。このゲーム、当然果樹も育成可能だ。キノコは原木を用意すれば栽培できる。香草や薬草は、畑で殖やせないだろうか。


 果たして、それらは全て可能だった。家の横は果樹園にして、りんごとみかんを植えた。果樹は1面あたり2本しか植えられないが、一度植えておけばずっと収穫が可能。キノコは、林との境界あたりに原木を配置した。こちらも果樹同様、何度でも収穫できる。


 香草も薬草も、無事畑に根付いた。ゲームでは出て来なかった作物なので、喜びもひとしおだ。しかも嬉しい誤算は、高値で売れること。いずれも収穫まで1時間以上かかるが、出来上がるのが待ち遠しい。


 カーソルを操作して畑を移動し、果樹園や原木置き場に変換。ついでに他の畑の位置も動かしておく。住民に貸し出した畑は民家の近くに、そして俺の畑はもっと俺の家に寄せて。これでより操作がしやすくなる。畑が増えたら、もうちょっと住民にも分けてやろう。二人で10m四方だと、食べて行くにはあまりにも小さい。


 そうこうしている間に、チーンというベルのSEサウンドエフェクトと共に、新しい作物がった。同時に俺のレベルが上がり、更に建てられる建造物が増えた。待ってました。




「ユート様、これは」


 持ち帰った果物やキノコが大きくたわわに実り、喜んで収穫していた採集班が気付いた。俺は、家の横に小川を置いた。これも10m四方単位で敷設ふせつできる。なんせ、水源も合流する川もなく、いきなり始まっていきなり消える怪奇極まりないオブジェクトなのだが、そういうゲームなのだから仕方ない。どこから来たのか、小川の中には小魚が泳ぎ、せせらぎの音が心地良い。自然音は癒やしだ。


 すぐに子供達が集まり、遊び始めた。女性陣も、井戸で洗濯するより川の方が楽でいいらしい。俺は彼らの集落の裏手にも、小川を敷いてやった。長閑のどかな農村が、どんどんそれっぽくなっていく。楽しい。既に風車は設置してあるが、水車を置いてもいいかも知れない。


 収穫したりんごとみかんを、俺にも分けてもらう。分けてもらうって言い方は変だが、村で好きにいでくれていいと言ってある。どうせ指を滑らせて収穫すれば、遅いものでも数時間でたわわに実る。


 りんごもみかんも、十分に大きく甘かった。ワイルドキャロットと同じ、彼らが採集して来た時には小さく貧相な実だったが、農場で作れば品質が上がるようだ。どっちも野菜と違って、皮を剥いただけで食べられたり、丸齧りできるのがいい。そういえば、果物なんて食べたのはいつぶりか。たまに気まぐれで、コンビニでフルーツゼリーやフルーツサンドを買ったりするくらい。あとは唐揚げのレモンくらいじゃないか。


 ああ、農村っていいな。スローライフってこういうことだ。いや、実際には人参が5分で実ったりしないし、平屋とは言え家が瞬時に建ったりしないから、スローかと言われれば微妙なところだが。のんびりした時間が流れる中、俺がすることといえば、指を滑らせて作物を収穫することだけ。何なら暇なくらいだ。やることがなくてつまらない、時間が余って仕方ないなんて思うの、いつぶりだろうか。幸せな夢だ。夢なら醒めないで欲しい。ずっとここで、暇を持て余しながら暮らしたい。


 そう思いながら、うとうとと転寝うたたねをした途端。


 ———…ピピピ、ピピピピ、ピピピピ。


 朝を告げるアラームの音。俺は、いつものパイプベッドの上で目を覚ました。




 来てしまった。朝が。しかし向こうは、まだ陽も傾いていなかったはず。前回は夕方まで滞在して、ほんの数駅分しか経っていなかったのに。そういえば、彼らは俺のことを「三日ぶり」と言っていた。こちらとあちらの時間の流れは、同じではないようだ。


 しかし、戸締まりをせずに来ちゃったな。まあ、あっちでは盗まれるような物もないし、何なら一から建て替えたっていい。わずか2,000コインのことだ。大した問題じゃない。


 とりあえず、頭を切り替えよう。今日は金曜日、明日明後日はあっちで存分に遊べる。そのためにも、なるはやで仕事を終わらせなければ。久しぶりにやる気に満ちている。俺は腹筋で起き上がり、身支度を始めた。

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