第4話 村人誘致

 男たちは、あらゆる作物を抱えていた。そう、これこれ!中には見たこともない野菜や果物があるけど、手に取って見るとそれが何なのか表示される。さっきのヒョロヒョロの人参がワイルドキャロットという名称だったように、元の世界の作物と多少外観は違っていても、全く突拍子も無い品種は含まれていないようだ。そりゃそうだ、日本のスマホゲーだもの。


「あー、ありがとうございます。じゃあ、1つずつお借りして」


 俺はとりあえず、1面ごとに1種類ずつ作物を植えて行った。植えるっつっても、オレンジの逆三角アイコンをタップして「栽培しますか?」に「はい」するだけだ。それにしても、種であれ作物であれ、1つ植えると何十個にも増えるって、どういう仕組みなんだろう。まあ、深く考える必要はないな。だってスマホゲーだもの。


 種、苗、作物そのもの。俺の畑では季節も何も関係なく、ニョキニョキと育つ。まるでタイムラプス動画でも見ているように、畑は一面の緑で覆われ、そして作物がモリモリ実る。モノによって実がる時間に差はあるが、早いものは2分で収穫だ。


 ポポポポ…ドサドサドサ。


 最初に採れたのは小麦。これが、ゲームでは一番最初に栽培するヤツだ。1束で1コイン、それが10束。一番速く出来る作物だから、売価もお安め。


「さ、こんな感じで」


 俺は、束の1つを手渡した。男たちはプルプル震えて滂沱ぼうだしている。


「本当に、こんな短時間で…」「この見限りの大地に畑など…」「天の助けなのか…」


 見限りの大地。聞いたことない名前だ。そんな設定、あったろうか。そして、リーダーらしき年長の男が、俺の手をがっしと握りしめた。


「ユートさん!いや、ユート様!我々も、ここに住んでいいだろうか!」


 え、ああ、そんな感じで増えるんだ、人口?なるほど。そういう仕様なのか。




 人口が増え、一定種の作物を開放したので、建てられる建物が増えた。まず住民のための住居。そして小麦を挽く風車小屋に、道路。一気に農村らしくなってきた。一人で作物を作っていても、いずれ畑の拡張はストップしてしまう。レベルキャップの開放には、人口増加が必須なのだ。


「家、20軒ほど建てといたけど、足りるかな」


 林の中から30人ほどがぞろぞろとやって来たが、皆一様に粗末な格好をしている。あまり豊かな暮らしはしていないようだ。まあ、そうでなきゃ移住なんてしてくれないだろうしね。ウェルカム。


 この人たち、元は林の奥の洞窟やその周辺に住んでいたそうだ。他種族との縄張り争いに敗れ、耕作に適さないこの地まで追いやられて来たらしい。元々狩猟民族なので、生活が成り立たないほどではないけど、狩猟と採集では生活基盤が安定せず、転々としていたという。そうなのか。見た限り普通の平原みたいだから、何も考えずに畑にしたけど、それは素人考えだったのかも知れない。まあ、そうじゃなきゃこんな平坦な土地は手付かずで残ってないだろう。ゲームでは語られない舞台裏の設定。夢ながら、結構作り込まれている。


 彼らの住処すみかは、ここからほど近く。だけど家財道具なんかは一気に運べないから、何日か掛けて移住して来るらしい。


「ついては、畑を使わせて頂きたいのだが、どうだろうか」


「あー、はい。まだ開墾面積が足りないんで、二人一面くらいなら」


「ありがとうございます!我ら天狼族、あなた様に忠義をもってお仕えいたします!」


 え、うん。…ああ?忠義?そういう設定?


 これって、農村シミュレーションゲームじゃなかったっけ。解せぬ。




 そんなこんなやりとりをしているうちに、大分陽も傾いて来た。俺も会社帰りで、随分腹が減っている。途中、非常食のシリアルバーをペットボトルのお茶で流し込んだけど、野菜は採れても調理は出来ないんだよなぁ。


「とりあえず、畑にってるのは自由に持って行っちゃって。俺、一旦休むから」


 何だかんだ、仕事終わりから夢の中まで、ずっと働きっぱなしだった。農作業小屋の藁の上で、仮眠を取ろう。そうだ、住民に建てた家の中とかどうなってんのかな。人口も増えたし、俺の拠点もグレードアップ出来たんじゃないか。


 まあいい。ちょっと寝よう。そして起きてから考えよう。俺、よく頑張った。やったことといえば、カーソルタップしたくらいだけどな。おやすみなさい。

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