自分に想いを寄せる、嫌いな幼馴染を捨てた話
灰色の鼠
第1話 「嫌いな幼馴染」
家が隣同士で幼いころからずっと一緒にいる。
一心同体の関係と言ってもいい。
彼女の両親は完璧主義者だ、共働きなため家でよく一人でいた。
そんな時は毎回のようにウチで世話になるために転がり込んでくる。
食卓、お風呂、ベッドなんて飽きるほど一緒にいる。
厳密に言えばユリが離れてくれないからだ。
しかも、それが現在進行形でも行われているという。
「おはようソラ!」
朝の登校時間。
自宅の玄関を出ると最初に会ってしまう人物がいる。銀の短髪を靡かせながら嬉しそうに青い瞳を向けてくる幼馴染のユリだ。
「なんで毎度毎飽き足らず待ち伏せすんだよ」
「だって、朝はあたしが一番乗りでいたいの」
「一番乗りはいつだって俺の両親だ」
「一緒のベッドに入る許可をすれば待ち伏せは辞めますけど〜?」
「もっと酷くなるじゃねぇか」
家から出ると急にユリは腕に抱きついてきた。
頬を擦り付けられながら、耳元で意味不明なことを囁かれる。
だが適当に受け流す。
抱きついてくるユリの腕から逃れ、通学路を先に歩く。
後ろでユリが頬を膨らませ文句を言っていたが、こんなやりとりを続けていたら遅刻しそうだ。
早々の騒がしさに面倒くささを感じながら俺は彼女を無視しながら学校を目指した。
「おはようユリ!」
「やあっ、おはよ」
正門前にいる同級生がユリに挨拶した。
俺へのマシンガントークが当たり前なのに。
その時に限って彼女の返事はいつも素っ気ない。
挨拶をしてきた知り合いへの挨拶を適当に済ませるとすぐ居ない存在かのように目をそらして俺へのお喋りを再開する。
こっちは会話をしているつもりはないが、その光景を見て内心不気味がっていた。
「あ、おはようユリちゃん」
「
「こないだの練習試合観たよ。追加点を決めたクロスシュート、すっごい格好よかった」
「それほどでもありませんよ、偶然です」
「いやいや、そんな事ないよ? 試合が近いといつも夜遅くまで居残り練習をしてるじゃないか。努力が実を結んだのさ」
「えへへ……どもです、ではっ」
二年の下駄箱前になぜか立っていた男子サッカー部の主将、健人先輩がユリに声をかける。
ユリは邪魔をされて不服そうにしていたが表面では笑顔をみせていた。
女子サッカー部に所属しているため男子サッカー部との接点があるユリはよく話しかけられる。
俺がいるときは控えめな接し方をするが。
まだ話ださそうにしている健人先輩から逃げるようにしてユリは手短に別れを告げると俺の手を引いた。
「……チッ」
去り際、健人先輩に睨まれたがコッチも不可抗力だということに気づいて欲しい。
周りからは美女と野獣?
と揶揄されていた。
ユリは「ただの幼馴染だよ〜」などと言い張っているが、本人は明らかにそれ以上の関係を望んでいるような行動ばかりをする。
彼女は可愛い。
今まで見てきた女子の中でも最たる容姿を兼ね揃えた彼女に振り向かない男はまずいない。
幼馴染というよりかは「兄妹」に近い関係で共に育ってきたからこそ彼女のことは誰よりも知っている。
だからこそ俺はユリのことが————
(……嫌いなんだよ)
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