第11話 棲み着くキラキラ
キラキラエルフが棲み付いて三日。出来るだけ相手しないようにしているが、私を発見するとすかさず五体投地を始める。
キラキラの態度は至極友好的に見えるのだが、こないだミニマップで見たら黄色で表示されていた。友好関係にあるドワーフたちは青色で表示されている。一体コイツは何なんだ、と思って表示をタップしたら、「信仰」と書いてあった。黄色ではなくて金色だった。なにそれ怖い。
ドワーフたちに相談すると、ミドリさえ気にしなければ、こちらに友好的なんだったら取り込んじゃった方がいいのでは、ということで、声を掛けてみる。よく考えれば、このキラキラに限って言えば、悪いことはしてないんだし。
恐る恐る結界の中に招待して、改めて焚き火を囲んだ夕食に誘うと、キラキラは号泣して五体投地を始めた。だから五体投地はもういいって。
「
キラキラはうやうやしくお辞儀した。エルフって五体投地だけじゃなくて普通にお辞儀もするんだな。
一方、エルフ族、ましてやエンシェントエルフが頭を下げるなど、ドワーフたちは今まで聞いたことがないらしい。その上五体投地。そもそもが、保守的で滅多に森から出てこないエルフ族な上に、エンシェントエルフとなると数百年前の伝説に出て来たが最後、もはやUMAと言っても過言ではない存在である。元の世界で言えば、エンシェントエルフは実在した!と発表すれば、オカルト雑誌の表紙を飾るほどの話題となるだろう。
菜食主義のエルフ族の前で、私たちが普段どおり飲み食いしても差し支えないか聞いたところ、是非もないとのことだった。そもそもがエルフが菜食主義とう言うのは都市伝説であって、普通に狩もすれば、動物の命もいただくという。証拠に、動物や魔物の皮も骨も利用して暮らしている。ならば、ということで、普段通りの飲食物を並べて歓待することとなった。
「それでは、我らが友誼を祝して、乾杯!」
早く飲みたくて待ちくたびれたのだろう、ドランクが空気を読まずに勝手に乾杯の音頭を取った。みんな割と気にしぃなので、彼のこういう天真爛漫なところがいい。それからはいつも通りに飲んで食べて、歌って踊った。こうなればもう、彼らにとってはキラキラもマブダチだ。
キラキラは、宴席に並ぶ飲食物のおいしさに感動していた。エンシェントエルフは精霊に近い存在といえど、普通に飲食物を摂取することもできる。普段は瞑想で魔素を取り込むだけで食物の摂取は不要であったので、こうして物を口にすること自体久しぶりなのだが、それがこれまで食べたことのない食べ物で、しかも美味。
「まさかこの歳で、食べ物で感動することになるとは、思いませんでした」
キラキラはプルプルしながら、唐揚げを口に運んでは震え、揚げ出し豆腐を口に運んでは震えていた。そしてジョッキを干して口に白い髭を生やして、二杯目はドワーフと腕を絡めて一気飲み、クロスカウンタープロージットをキメていた。このエルフ、ノリノリである。
さて宴もたけなわではございますが、今回は顔合わせということで、エルフは早々に辞去していった。このへんの引き際は流石である。何かあればいつでもお呼びください、何なりとお申し付けください、とのこと。
「我らより遥かに長い時を生きるエルフ、決して油断は出来んのじゃが…」
とウントが唸ると、
「ともあれ、
楽天家のドランクが思考を放棄する。
「酒を酌み交わせば友じゃ。相手を信じて義を貫くが我らの誇りぞ」
仏のシュトゥルムがとりなす。流れるようなジェットストリーム友達認定。
なお、女子は「ちょっとク○ツァイト様っぽくね?!」と盛り上がっている。平和だ。
翌日から、誰からともなく結界の外のキラキラの庵を訪ねて行くようになった。キラキラは博識で、若いドワーフたちの探究心と向上心を導く、優秀な教師となった。エルフ族は鍛治をしないので、鍛治についてはドワーフ族の
一方で、ドワーフたちの持つタブレットに、彼は猛然と魅了された。直接欲しいと言われたわけではないけれど、あんだけおやつを目の前に必死で「待て」をしている犬のような顔をされてはたまらない。とりあえず、タブレットを一台渡しておいた。
なお、キラキラの家は結界の外にあるのだが、私たちの身の安全のためと、敵対的エルフが入れないように、別に結界を張っておいた。たまたま森の中に転移して、たまたまここに居を構えているだけで、ここは別に私の土地でもなんでもない。ドワーフたちのように友好的な隣人ならば、特に拒む理由も権利もないのだ。
とりあえず、うちん
それにしても、この金色の光点…キラキラは、私に対して友好を通り越して信仰心を抱いているようだ。怖い。目視するとカーソルが合って、「信仰度・極」と出ていた。とても怖い。
極って何だよ、と思ってタップすると、なんとキラキラの詳細ステータスが表示された。
—
オーエン
種族 エンシェントエルフ
称号 フィルス・ド・リュミエール
レベル 9,999
HP 65,535
MP 65,535
POW 255
INT 255
AGI 255
DEX 255
スキル
・鑑定 LV MAX
・全属性魔法 LV MAX
・聖霊魔法 LV MAX
—
何これ。カンストっていうんですか。ラスボスなんですか。あと、年齢が1万5000歳超だそうで、ご長寿どころの騒ぎではなかった。リビングデッドならぬリビングレジェンドである。
だが何が一番怖いって、そのエンシェントエルフより遥かに高い、自分のステータスであった。もうどうにでもな〜れ☆
「あのさあ、フィナントカっていうのは肩書きで、あなたって本当はオーエンって名前なんだね」
ドワーフたちがいない時、キラキラに聞いてみた。
「オーエン、懐かしい名です。私のことを鑑定なさったのですね」
「勝手に鑑定したら悪いかと思ったんだけど、つい見えちゃって」
「良いのです。鑑定は、強者から弱者にしか通用しませんから。鑑定されて情報が覗き見られるのは、その者の弱さが悪いのです」
オーエンは、紅茶を一口すすって微笑んだ。
「それにしても、私の
「その魂のナントカって、それも鑑定なの?」
「我らエルフ族は、精霊眼を持っています。
「そうなんだ、便利だね」
「普段は微弱な魔素の流れを感知する程度のものですが、ミドリ様から放たれるご威光はまばゆいばかりです。精度を落とさなければ正視できません」
オーエンの頬が染まり、鼻息が荒くなってきた。ヤバい、五体投地寸前だ。
「先日のエルフたちは、精霊眼が未熟ゆえ、ミドリ様の体内の魔力、放出される魔素を正確に感知できませんでした。ですから、ミドリ様の力量と神聖な崇高さを理解できず、あのような暴挙に」
言いつつ五体投地に突入した。おいやめろ。
「
五体投地をやめたのはいいが、恍惚な視線が気持ち悪い。おいやめろ。てか黄金の緑色って意味分かんねぇぞ。
「ミドリ様はご自身の美しさに全く無頓着でいらっしゃる。どうかご覧ください、ミドリ様の神々しい美しさを---精霊眼!」
オーエンが胸の前で合掌し、そこから蛍のような光が額の方に飛んで来た。その瞬間、視界が猛烈な光量に襲われた。太陽を正視するどころの騒ぎじゃない。目が!目がぁぁ!
「私の気持ち、伝わりましたでしょうか…」
スキルの効果が切れて、ようやく視界が戻ってきた。オーエンはうっとりしている。どうやら彼の目から見ると、私は後光どころか強烈な発光体に見えるようだ。黄金の緑色っていうのも何となく分かる。入浴剤を入れたお風呂のような色の光だった。スライム色と言えばいいのか。
「崇高な美しさのあなた様から、遠い昔に忘れ去られた真名で呼ばれるとは、この幸福感を表す言葉を私は知りません」
たまたまステータス画面を見て、名乗っていた名前と違ったからちょっと確認しただけなのに、目が潰れそうになるとは思わなかった。彼が悪くないのは分かっているのだが、どうしても神格化されて有り難がられるのは居心地が悪い。教祖じゃないんだからさぁ。
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