第2話 異世界ソロキャン
とりあえず、組み立てが簡単そうな小ぶりの二人用のテントと寝袋をポチり、寝袋をクッションにして座る。せっかくのキャンプ生活なのだから、炭でもおこして優雅にコーヒーとか淹れるべきなのかも知れないが、面倒なのでペットボトルのお茶にする。
今しなければならないのは、現状の整理だ。視界の右下に見えるステータス画面を、あちこち操作しながら、隅々まで確認する。
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ミドリ
種族 ヒューマン
称号 異世界からの転移者
レベル 2
HP 200
MP 200
POW 20
INT 20
AGI 20
DEX 20
スキル
・鑑定 LV 2
・空間魔法 LV 2
ユニークスキル
・ネット通販楽園 LV 2
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ステータスだけでなく、スキルレベルがレベルと連動して上がっている。こんなヌルゲーでいいのか。いや、今の状況にゲーム性は求めておりませんけども。収納したものを10万円分売却したからって、スキルレベルってこんなに簡単に上がっていいのか。大体こういうのは、MPが枯渇するまで魔法をぶっ放すとか、ひたすら素振りをするとか、そういうパターンじゃないの。いや、素振りしなくてもスキレベ上がるのは有り難いんですけども。
スキルの横にプラスマークが出ていて、タップするとスキルの内容が詳しく見られるようになっている。鑑定レベルが上がったからか。そういえば、わざわざネット通販の売却画面を見なくても、インベントリを見ると持ち物の横に売却価格が書いてある。便利。
空間魔法の中身を見てみると、結界が張れるようになったらしい。そういえばここ森だもんね。魔物までは防げるかどうか分からんけど、虫くらいなら防げるだろうか。とりあえずテントの周り、半径2メートルの球体状に結界ポチリ。MPが10消費されたが、10時間の間、軽い結界が張れたようだ。
ネット通販は、少し品揃えが良くなったようだ。先ほど見たテントのページ、もうちょっと豪華なテントが並んでいる。レベルが上がるにつれて、もっと豪華なお買い物ができるようになるのかも知れない。夢が広がる。
あとはインベントリの中身をチェックしないと。土と石は排出したけども、範囲収納したものものが、すごい長さのリストになっている。何かの石、腐葉土、粘土、薬草、毒草、雑草、きのこ、木の枝、などなど。値段は0円から数千円と様々。薬効のあるキノコとか、良い値段がするようだ。
ツツーっと指を滑らせてスクロールしていて、もうすぐリストも終わろうかという時、こんな項目が現れた。
・錆びた剣 2,000万円
・錆びた鎧 3,000万円
・呪いの指輪 200億円
…呪いの指輪?
呪いの指輪、200億円。なにそれ怖い。私が何気なく収納した土の中に、そんなものが埋まっていたとは。インベントリに入れてて、呪われないかな。だけど売ったら売ったで呪われそうだ。
10秒ほど考えて、売った。
どうせ持ってても売っても呪われるなら、売ってしまえばいい。証拠隠滅だ。売ったらどこに行くとか考えない。なにしろ200億円。
その瞬間、頭の中でファンファーレが鳴り響いた。
レベルが上がりました!
レベルが上がりました!
レベルが上がりました!
レベルが上がりました!
…
鳴り止まないファンファーレと、レベルアップのログ。レベルアップに連動して、ステータスが上がったり、スキルレベルが上がったり、派生スキルを獲得したり、ログが止まる気配がない。いつまで見てればいいんだと思っていたら、下の方に「skip」のボタンを見つけて、押してみた。
流石の私でも、何となくマズいことをしてしまったのは分かる。恐る恐る、ステータスを確認してみた。
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ミドリ
種族 ヒューマン
称号 異世界からの転移者
レベル 200,002
HP 20,000,200
MP 20,000,200
POW 2,000,020
INT 2,000,020
AGI 2,000,020
DEX 2,000,020
スキル
・鑑定 LV MAX
・空間魔法 LV MAX
ユニークスキル
・ネット通販楽園 LV MAX
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あ、これはアカンヤツや。レベル20万って何ですのん。あと、レベルがいくら上がっても10万円の取引額でレベルが上がって行くらしい。なにそれ怖い。だが、10億円あれば一生遊んで暮らせると聞いたことがある。200億円を売り上げてしまった今、あとは誤差でしかない気がする。
そう、もう何もかも遅いんや。とりあえず、開き直って遊んで暮らそう。ネット通販楽園には何が並んでいるのだろうか。開いてみようそうしよう。決して現実逃避ではない。決して。
ネット通販を見ていて気づいたのは、ネット通販のサイトのみならず、普通にインターネットで閲覧できるものは、ほぼ全て購入できるようだということ。なぜなら閲覧できるものに一々値段が表示されていて、タップすると「購入しますか?」というメッセージが出てくるから。
なにそれすごい。
本当に楽園やん。
とりあえず、先ほど買ったばかりのテントではあるが、これはお役御免になるかも知れない。そもそも私はアウトドアの人ではないから、できれば普通に暮らせるマイホームが欲しい。
だがしかし、私には建築スキルなどない。異世界転移の物語には、土魔法で家を作ったり、錬金術であらゆるものをクラフトするものもあるが、働きたくない私には無縁のものなのだ。
そういう物語を読んだ時、私はいつも「そんなのキャンピングカー買えばいいのに」って思ってた。それかトレーラーハウス。そして実際、キャンピングカーやトレーラーハウスの画像を見て、いろいろ妄想を膨らませていたものだ。
その妄想、今こそ叶える時なのではないか。
いやその前に、この古墳状の我が城を何とかしなければなるまい。これでは小学校の築山ではないか。ここにキャンピングカーやトレーラーハウスを置いても、安定して設置できないどころか、乗り切らないまである。
ここは素直に、もっと土地を造成しよう。幸いMPは唸るほどある。2,000万だってあははは。
半径50メートル、深さ2メートル。周囲の木も土も、ごっそり収納。そして真ん中に土だけ出して、石をボトボト落として固める。出来上がり。慣れたものだ。
ここに、とりあえずいい感じのキャンピングカーを一台ポチって設置する。何度か収納と排出を繰り返し、気に入った位置に置いて、入居準備完了。一通り最低限の家具はあるが、自分の好きなものを買って置き換えよう。何てったって、1億使ってもまだ199億。
最初に買ったテントは、収納ののち即売却。使用時間2時間弱。ありがとうございました。お世話になりました。
早速夢のキャンピングカーに入居してみた。電源や水の供給、排水は、蛇口やバッテリーにMPを注ぐことによって作動するみたい。電源はどんな電化製品でも1時間1MP、非常にざっくりしている。水は1MPで1立方メートルほど出るようだ。お湯として供給することも可能。排水も、排水口にMPを注いでおけば、自動的に処理してくれるっぽい。どこに消えるのかは分からない。
車載バッテリーに触れると、「MPを注入しますか」と表示されて、プルダウンメニューで注入量を決定できる。この車の諸々のMPを、一括で管理できるようだ。とりあえずMPは2,000万あるのだから、マックスの10万ほど注いでみた。なお、10万ものMPを注いだのに、MPはみるみる回復していく。レベルアップのログを読み飛ばしていたので気づかなかったが、いつの間にか「MP超回復」というスキルが空間魔法の下に生えていたらしい。どんなに使っても1時間で完全回復するんだってなにそれ怖い。
早速、キャンピングカーに付いていたシャワーでさっぱりした後、憧れのもこもこ部屋着を買い、通勤用スーツは脱いでそのまま収納売却。なんだかんだ時間が経っていたので、ネットで食べ物を物色。そういえば、冷凍機内食の通販があったな。食べてみたかったんだ。早速ポチって、電子レンジでチン。
キャンピングカーのベッドは、小柄な私には十分な広さ。そこに、部屋着で胡座をかいて、トレイの上に冷たいジュースと、ホカホカの機内食をスタンバイ。テーブルで食べてもいいけど、あえてベッドで食べる。何たる堕落。何たる至福。
一つ不満を挙げるとすれば、さすがにキャンピングカーにはお風呂はないということだ。お風呂付きのキャンピングカーもあるみたいだけど、せっかくお風呂が手に入るなら、狭いお風呂では意味がない。いっそバスタブを屋外に置いてみてはどうか。それがいい。
とはいえ、屋外のお風呂を
神様仏様、どなたが転移させてくださったかは存じませんが、一言アドバイス申し上げます。
怠惰な人間を転移させちゃダメだと思う。ダメ人間万歳。
あれからダラダラと、動画を見たり動画を見たり、自堕落な生活を続けている。
あれだけ憧れていた動画三昧生活も、続けていると不思議と飽きてくるもので、今度はテキパキと家事がしたくなる。現在のマイブームは洗濯だ。憧れのドラム式洗濯機を購入したが、乾燥までせずに、わざわざ物干しを買って屋外に干している。つい先日まで乾燥機付きの洗濯機が欲しかったのに、暇だから洗濯物を干すとか、なんたる贅沢。
なお、屋外干しにはお天気の心配が付き物だが、結界スキルが全てを解決してくれた。レベルアップで結界スキルが進化して、詳細な調整ができるようになっていたらしい。結界の大きさ、何を入れるか入れないか、結界内の温度や湿度管理など。結果、森の新鮮な空気は取り入れられるが、害虫ゼロ、魔物なども侵入しない。当然雨も降らなければ、湿度が上がってジメジメすることもない、快適空間となっております。
風呂も用意した。ネットで猫足のバスタブを買い、キャンピングカーの前に設置。誰が見ているわけでもないが、衝立のフェンスも用意した。結界のお陰で雨は降らないが、天気の良い日は満天の星空を眺めながら入浴することができる。給水や排水や温度調節も、これまでの家電などと同じ、MPを注入しておけば難なく使えた。
お高級なシャンパンを用意して、キンキンに冷やしてお風呂であおりつつ、衝立にスクリーンを張り、映画を見る。昔SNSで見たパリピ生活を、余すところなく再現してみる。パリピと違うところは、私はこの世界で一人ぼっちで、誰に見せるわけでも見られるわけでもないところ。寂しくなどない。虚しくなどない。お一人様OLの鋼のメンタル。そして、シャンパンってこれはこれで美味しいけど、一本も飲み切らないうちに飽きた。パリピの世界って、画面の向こうから見るよりも、そんなにキラキラしいものではないのかもしれない。
一つ感動したのは、同じ高級でも、お高い化粧品はそれなりの性能があったということだ。特にボディオイルや入浴剤など、普段手を出してこなかったものが、とても良い香りで、肌に馴染む。これは癒されるわ。もし向こうの世界に帰ることがあれば、絶対リピしよう。毎日のお風呂タイムが楽しみでたまらない。
DIYにも凝り始めた。空いた敷地に芝を買って敷き詰め、焚き火を設置したり、一人ピクニックをしたり、一人バーベキューをしたり、なんだかんだと楽しくやっている。一人キャンプなんて流行ってるから、もしかしたら動画投稿者になったら成功するかもしれない。200億あるからやらないけど。
一通り生活基盤も快適に整って、そろそろ何か習い事でもしようかな、ヨガにしようかボクササイズにしようか、などと考えていた時に、それは襲来した。
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