第3話 エルフ襲来
ある夜、結界に何かが接近しているというアラートで目が覚めた。結界は強固に張ってあるから、アラートなど不要だったと気づき、すぐにオフにしたが、何が接近してきたのか気になり、起き出して家の北側に向かってみた。
中世の軽鎧とローブで身を包んだ、金髪碧眼で長身、耳の長い男が立っていた。
エルフだ。エルフである。この世界にはエルフがおる。
自分以外の知的生命体の存在に感動していると、男はこちらを睨み付け、
「おいお前!ここで何をしている!」
エルフが日本語しゃべった?!と思ったら、口の動きは日本語ではなかった。どうも脳内で日本語に変換されているらしい。膨大なログを見ていないから分からないけど、きっと異世界言語理解みたいなスキルが、ステータス画面のどっかに生えているのだろう。
ともかく、夜分にいきなり押しかけてきて、「何してる」とかこっちのセリフだ。不審者はそっちですけど?お宅バカなの?
目の前の尊大な男に、オブラートに包まずにそう告げた。感動イベント、秒で終了。
「魔の森の中心に、このような面妖な建設物。尋常ではない。さてはお前魔族だな!」
あ、人のお話を聞かないタイプの方ですかそうですか。おまわりさんに突き出したいところだが、生憎ここは異世界だ。結界に隔てられて、見えない壁をドンドンと叩くエルフがこちらに侵入することはないが、さて、どう対処したものか。
「ええい、これでは埒が明かん。お前たち!」
掛け声と共に、暗闇から矢と火の玉が飛んできた。どうも奥に何人か潜んでいるっぽい。コイツら、夜中に押しかけてきて、勝手に魔族認定して、一斉攻撃してくるとは何事だ。
腹が立って、何とか撃退できないかとステータス画面をいじっていると、周辺マップが表示できることが分かった。マップを見ると、赤い点が4つ確認できる。エルフは4人いるようだ。
そうだ、攻撃してくるんなら、攻撃できないようにすればいいのではないか。奴らの武器って、ここから収納できたら、攻撃出来なくない?
赤い点をタップして、武器と入力、収納をタップすると、インベントリに矢筒と弓、短剣やナイフなどが追加された。
「武器が!おのれ、卑怯な真似を!」
リーダーの男は激昂し、四方向からそれぞれ火の玉や氷の弾が飛んできた。魔法戦に切り替えたらしい。残念ながら、全て壁に阻まれて消滅しているが。
爆音と罵声がうるさくてかなわない。しかもかなりムカつく。結界によって、外界の音はミュートすることもできるが、普段の小鳥のさえずりなんかは癒しなんだよなぁ。
そうだ、武器が収納できるなら、魔法も収納できるんじゃないだろうか。結界を操作していると、魔法を吸収するように設定できるらしい。あったな、RPGでもそういう魔法。自分がやられると、微妙に腹立つヤツ。魔法を吸収するように設定すると、魔法は壁で消滅して、その分MPがインベントリに収納されるようになった。
何、MPってインベントリに収納できるの?毎時間膨大なMPが回復するんだから、余ったMPは何かの時のために収納しておいてもいいかもしれない。
とはいえ、結界に魔法がぶつかるのは変わらないので、奴らはずっと魔法を撃ってくる。見りゃ分かんだろ、無駄だっての。リーダーは「頑丈な障壁だな、しかしどれだけ持つかな!」などとホザいている。もしかしたら、普通の魔法障壁は、耐久力が乏しいのかもしれない。この結界は、耐久度ではなくて1時間あたりMP1で展開しているので、あと何か月かは消えなさそうだけど。
いい加減、エルフの魔法と罵詈雑言が面倒になってきた頃、そうだ、武器を収納できるなら、MPも収納できんじゃね?と思い立ち、赤い点をタップして、MP→収納してみた。
すると、さっきまで威勢よく魔法を撃ってきたエルフたちは、バタバタと倒れて沈黙した。あ、やっぱMP切れると昏倒するんだ。静かになった、良かった良かった。
夜中に叩き起こされて不機嫌だったが、一件落着したらまた眠くなってきた。その後はベッドに入って、早々に眠った。
翌朝、結界の調整を見直した。そうだ。RPGゲームでは、敵の魔法を吸収する呪文もあったが、敵の攻撃を跳ね返す呪文もあったではないか。案の定、結界にも『攻撃反射』の機能があったので、設定しておいた。今後は物理攻撃も魔法攻撃も跳ね返す。結界ちゃんマジ優秀。
なお、そっと北側を覗いたところ、エルフたちは諦めて立ち去ったようだ。私はその場でホームセンターのページを開き、杭とベニヤ板と赤いスプレーを買い、異世界言語理解スキルで理解したエルフ語で『エルフお断り』と書いて、北側に向けて立てた。
今後一切、エルフはお断りである。
さて、インベントリの中には、エルフから吸収したMPが残っている。MPって収納できるんだ、と分かったことはいいことだけど、アイツらのMPとか胸糞悪い。ゴミ箱ボタンをタップして、消去してしまおうかと思ったが、MPをタップしたところで『魔石化』というコマンドが現れた。
魔石。
魔石ですとな。
限りなくファンタジーな響き、是非とも作ってみなければなるまい。
MPはタップ一発で魔石になった。手のひらに取り出してみると、砂利のような大きさの石がコロコロと出てきた。深い青色の、ガラスのような質感だ。しばらく感動して眺めていたが、アイツらのMPで出来ていることを思い出して、イラッとする。再び収納すると『売却』の文字が出てきたので、売却してみた。4人分4個あったが、1個2,000円ほどで売れた。
吸収した元のMPは、個人差があれど、それぞれ200程度だったと思う。ならば、魔石に加工すると、1MP10円で売れるということだ。
私は今、レベルが20万を超えて、MPは2,000万を突破している。いつの間にか『MP超回復』というスキルが生えていて、1時間で最大MPまで自然回復するようになっているようだ。このMPを、たとえば1時間に半分収納して、魔石化して、売却したら、1時間で1億円、手に入る、ということになる。
1時間で1億円。
しかも、売却すればしたで、またレベルが上がるのだ。
ヤバい。アカン。手が震えてきた。考えないようにしよう。あはは。
とりあえず、1時間ごとに、最大MPの約半分である1,000万MPを収納して、魔石にして貯蔵しておくように、インベントリを設定した。試しに1,000万MPの魔石を取り出してみたら、大きさこそソフトボール大だったものの、青い結晶の中に水色の炎がゆらめいて、ほんのり輝いている。一目で前の魔石と別物であることが分かった。説明文を読むと、これで1,000万MP分のエネルギー源となるらしい。魔道具に使ってよし、魔術師のMP供給源にしてもよし、エネルギーロスなし。何それめっちゃエコやん。
キャンピングカーとお風呂のバッテリー部分に魔石をかざすと、魔石はスッと吸い込まれていった。そしてバッテリー自体がほの青く輝き出し、魔石から魔力が供給されるようになったことが分かった。1,000万MPとか、いつになったら尽きるんだろうか。半永久的である。そして今のところ、これ以上魔石を使うところなど、ないのであった。
死蔵。先延ばし。臭いものには蓋。
私のインベントリには、毎時間、ソフトボールのような魔石がゴロゴロと誕生することとなった。
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