第9話 反撃
「相手の人数は?」
直美は渡辺に聞く。
「ホールには8人いました。他の場所にもいると思いますが把握できてません」
渡辺の答えを聞き、直美は頷く。
「とりあえず、ホールを制圧してウチのメンバーを解放しましょう」
「ええ。彼らを拘束した縄は既にこっそり緩められているみたいなので、すぐに動けると思います」
渡辺の言葉を聞き、直美の表情がやわらかくなった。
大丈夫だと確信できたのだ。
『王女、王女はここに隠れていてください』
直美は王女をパウダールームに入るように言う。
『で、でも……』
王女は戸惑いの表情を向けた。
『貴方は、今、殺されるわけにはいかない。……この国も惨状を何とか出来るのはあなたしかいないのだから』
直美は真剣な表情を王女に向けて言う。
直美の顔を見て、王女は決意したように頷いた。
シージャック犯はスタッフの何人かを給仕係として任命し、犯人たちや乗客が体調を崩さないように飲み物などの世話をさせていた。
渡辺もそのうちの一人だ。
キッチンはホールと隣接しており、ホールから、コック達の上半身が見えるような作りになっている。
コックなどのスタッフはその場所でホールを気にしながら不安そうに簡易椅子に座っていた。
給仕係の女性スタッフもそこでホールの様子を見ている。
そのキッチン部分に、王女達が監禁されている部屋に飲み物を運んでいった渡辺がワゴンを押して通用口から戻って来た。
「みんな、驚いた表情をしないで、普通にしてて」
渡辺は表情を変えずに小さな声でそう言うと、皆が少しだけ渡辺をみてから視線を元に戻す。
通用口から腰を落とし、這うようにして直美がキッチン部分に入って来た。
皆、ちらっと見るが何も見ていないふりをする。
一人のコックは直美が見えにくくなるように立ち上がって、作業をするふりをしてくれた。
渡辺は大型のワゴンを引っ張り出した。
そしてシーツで完全に隠れている下の段に直美を乗せる。
それから上にお菓子を並べた。
他のメンバーもお菓子を並べるのを手伝う。
お菓子を並べ終えると渡辺が深呼吸をする。
「気を付けて……」
小さな声で渡辺の同僚の女性が言う。
それからコックの一人が渡辺の腕をかるくたたいた。
「いってきます」
渡辺はそう言い、キッチンからホールへ出て行く。
渡辺がワゴンを押してホールに入ると、皆がそっちに視線を向けた。
『なんだ?』
男の一人が渡辺に聞く。
『あの……そろそろ小腹が空いてきたのではと思い……エンジェルパイを持って来ました』
『エンジェルパイ?』
男が怪訝そうな顔をした。
良平と原田が驚いたように顔を見合わせた。
そして次の瞬間、ふたりはバッと動いて椅子を倒す。
がたん!
『!』
大きな音に気をとられ、驚いて犯人の男達が倒れた椅子の方をみて銃を向けた。
優達が作った一瞬の隙を逃さず、直美がワゴンから飛び出る。
「ふせて!」
直美は叫びながら銃を構えている男のひとりに向かって撃つ。
同時に、銃を取り上げられてなかった佐々木が銃を取り出して撃った。
佐々木の銃の腕は天才的だ。
客が悲鳴を上げて伏せる中、一瞬で敵二人の腕と足を的確に打ち抜き動きを封じた。
勉もすぐに動いた。
騒ぎの中、持っていた予備の銃を1つ良平に投げる。
直美も用意していた予備の銃を優に投げた。
「皆、テーブルを倒して陰に入るんだ!」
誰が叫んだのか分からないが、その場にいた乗客はテーブルや椅子を盾にして身を伏せ始める。
キッチンに居たスタッフ達もその場で腰を低くし、頭を下げた。
吉良3Sのメンバーで銃を持っている者は、全員銃で犯人たちを撃ち、犯人たちは次々に倒れていく。
しかし、外にいたテロリストの仲間たちが銃声を聞いて慌てて走って来た。そして仲間を援護し、銃を乱射し始めたる。
直美の銃が玉切れになり、撃つと、カチャンカチャンという音しかしなくなる。
直美の玉切れに気付いた敵が直美を狙い始めた。
良平が、敵に狙われている直美に飛びつくようにして敵の銃弾を避けさせる。
勢いよく良平が飛びついた反動で床に倒れた直美達だが、倒れたついでに直美は目の前に倒れて死んでいる犯人のひとりから銃を盗り、それを使って撃ち始める。
直美は銃を撃ちながら、死んだ男の体を探りのう一丁銃を見つけて盗ると、良平に投げた。
良平は持っている銃を捨て直美が投げた銃をキャッチし、その銃を使って撃ち始めた。
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