第6話 クーデター発生

『きゃ!』

 王女の部屋のベッドに王女と直美は勢いよく放り投げられ、王女が小さく悲鳴をあげた。


『痛いじゃないの! 乱暴ね!』

 直美がすぐに体を起こして怒鳴る。


 シージャック犯たちは船を掌握した後、王女と直美のふたりだけレストランから王女の部屋に移動させたのだ。


『威勢のいいお嬢さんだな……』

 迷彩服を着た男がにやにやしながら言う。

 直美は王女を少しでも庇う為に王女を自分の背中に隠す様に座った。


『へぇ……王女を守ろうってのか?』

 にやつきながら言う男を直美は鋭く睨みつけた。

 しかし、直美の体は震えている。

 直美は震えながらも表情に怯えが出ないように男から目を逸らさない。


『いい根性だね。……いいぜ、お前から可愛がってやるよ』

 男はそう言うとライフルを置いて直美の手を掴んで引っ張った。

『きゃあ!』


『やめろ!』

 男達の中の一人がするどい声で叫んだ。


『婦女を暴行するのが目的じゃないだろ! 低俗な事をするな!』

『っち……わかったよ』

 男が直美を離すと、王女は真っ青になりながら直美を抱きしめる。

 王女の瞳には涙が溜まっていた。


 ~~*~~


「何が侵入者は3人だと思うだ……」

 良平はつぶやくように言う。


 良平は後ろ手に縛られ、端の方に座らされていた。

 見つからないよう、椅子と人の陰に隠れるようにして良平の背後に近付いた勉が良平の言葉を聞きばつの悪そうな顔をする。

「すみません……」


「お前、毎晩、何していたんだよ」

 不機嫌な様子で言う良平に、勉はしゅんとなりながらも良平の縄を緩めはじめる。それからすぐ横の優、佐々木と仲間の縄を順に緩めた。

 いまは手が自由になったことを悟られないように縄は緩めるだけだ。


 案外船はエンジン音や振動があり、小さな物音や声は拾い難いようで、誰にも気付かれることなく勉は仕事をこなした。

 勉は決して出来の悪いエージェントではない事を良平も十分わかっていて、今はイライラをぶつけるように文句を言っているだけだった。


 グチグチ文句を言う良平を見て、優が男たちの様子を伺いながら勉を庇うように言う。

「過ぎたことを責めてもしかたないだろ……次の手を考えないと」


 犯行グループの男達は少し前からホールにある全部のモニターの電源を入れ、いろんなTV番組にチャンネルに合わせて流していた。

 そして時折時計を確認しながらTVを見ている。


「時間を気にしているのか? ……それともTVの放送か?」

 優が声に出して言う。

「何かを待っているんですかね?」

 全員の縄をゆるめ終わった勉がちらりとTVを見て言う。


 しばらくして、急にTVから聞こえる音が騒がしくなった。

 そしてどのチャンネルも突然特別報道番組に切り替わっていく。


「一体なんなんだ?」

 良平が無意識に声にだして言う。


 フロアの全員がTVの方をみて、流れて来る内容に注目した。

 シージャック犯たちも皆、真剣な表情でTVを見つめている。


 TVには王宮らしき建物が表示されており、そして戦車や兵士の姿が映し出された。

 TVに戦車や兵士の姿が映し出された途端、それを見ていたを見ていたシージャック犯たちは一斉に手をあげ、拍手し喜びの声を上げ始める。


 優や良平は驚きの表情になる。

 勉は不思議そうな顔で優と良平を見た。

「いったい、何があったんだ?」


「……あいつら、クーデターを起こしやがった……」

 TV画面を見ながら優が呟いた。


 *


 シージャックされた豪華客船はゆっくりと湾に入り港に着いた。


 比較的、この地域は安全な地区なのか、報道の規制などはされていないようで、船着き場付近には外国の報道員が集まっているようだった。

 

 クーデターを起こした組織はわざとここから世界に自分達の国の状況を発信させ、クーデターが起きたことを世界にしらせたいという意図があるのだろう。

 この豪華客船が停泊した付近には、あらかじめ世界中のTV局を集められていて、入って来る船をカメラにおさめたり、レポートをしたりと、辺りは大騒ぎになっているようだ。


 その様子はTV画面を見ているとよく分かった。

 様々な国のレポータ達がこの豪華客船をバックに中継を始めたのだ。



『日本船籍の豪華客船がシージャックされ、クーデターが起こったばかりのこの国の港に今、入ってきました』


『豪華客船には次期国王候補のエリザベス王女が乗っています。犯行グループは声明を出しており、王政を廃止し軍政に移行するためにクーデターを起こした東軍の者たちが犯人ということです』


『東軍は王宮に対し、王女を人質に政権放棄を要求している模様です』


『要求がのまれない場合、王女が殺されてしまう可能性が高いと、専門家たちは一様に心配しています』


『現国王は現在病床についており、子供は王女ひとり。ここで王女が殺されてしまえばその時点で、政府が転覆する可能性もあり、情勢としては東軍が有利だと言ういう見方です』


 一斉にレポータ達が耳のイヤホンから流れてくる音を気にする仕草をしはじめた。そして話だす。

 

『あー、……たった今、日本政府から正式コメントが出たようです。にコメントの内容を伝えますと……クーデターを起こした東軍に対して船の即時解放を要求する。今回の件、日本政府としては大変遺憾であり、王女を含め乗客、乗員全員の安全を保障し、即時解放を要求する……また、今後は国連とも対応を協議したいとのことです……』



 船のレストランホールにも、TVから聞こえてくる声が響いていて、乗客を含め、皆がそれを不安そうに聞いていた。


『お聞きのとおりだ、諸君……』

 リーダらしき男は視線をTV画面から乗客たちに向け、そして演説するように話し出す。


『我々は王政を廃止する為にクーデターを起こした。王女が贅沢にこんな船で旅行している間に準備し、今日、この日を待って国民の幸福の為にクーデターを決行したのだ! 事がうまく運べば、誰にも危害を加えることはない! 王政を廃止し、軍が主導で民主化を目指そうとしている我々にぜひ協力していただきたい!』


 軍主導で民主化だと? 

 軍政を敷いた上で民主化なんて……難しいに決まっている。

 国民の為なんて、勝手なことを言っているが……


 心の中で皆がそんなことを考えたが、誰も口には出さない。


 計画通り事が進んでいて上機嫌なシージャック犯たちを皆が冷ややかに見ていた。


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