第4話 船の上も結構忙しい

 朝食を済ますと、直美と良平は早速王女の元に向かった。


 王女は早く起きていて退屈していたようだ。二人がやってくると嬉しそうに、早速一緒に部屋を出る。

 

 いい気候だし、いい天気だった。

 直美と王女は、デッキのカフェスペースに座り海を眺めながら、のんびりとした雰囲気を楽しむ。

 紀子と祠堂は王女の従者達とともにすぐ傍で立って控えている。


 良平は女性二人の邪魔をしないよう、少しはなれた場所で読書をするふりをしながら周りに気を配った。


『ねぇ、直美ちゃん、直美ちゃんと良平さんって……』

「え?」

『本物の恋人同士でしょ?』

 王女が離れている良平の方に視線を少しやった。直美は赤くなる。

『あ……はい、一応そう言えますかね』


『やっぱり。そんな気がしたわ。二人は婚約しているの?』

『まあ、はい……』

 直美は照れながら答える。


『まあ、ロマンチィックね! 素敵な方がお相手でうらやましいわ!』


『お、王女様は? そういう方は、いらっしゃらいのですか?』

 直美が聞くと、王女は妖しく微笑んで見せる。


『あ……その微笑みは……』

 直美は、王女の表情を見て想い人がいるとそう感じ取った。


『内緒よ……これは女友達同士の、内緒話よ』

『はい。勿論です』


『ふふ……直美ちゃんが居てくれて本当に嬉しいわ、退屈を覚悟していた旅だけど、楽しい旅になりそう』

『わたしも、王女殿下と一緒に居られて……楽しいです』

 恥ずかしそうに直美も言う。


『ベスよ……』

 王女が直美を見て言った。

 直美はキョトンとした顔を王女に向ける。

『親しい方々には、ベスと呼んで頂いているの。ベスと呼んでください』

 直美の顔がパッと明るくなり、頷きながら返事をする。

『はい!」

 直美の明るい返事を聞き、王女は嬉しそうに微笑んだ。


『今日はね、いろんなイベントに参加する予定なの。10時から演奏会でしょ。それからランチ会があって、午後からはミニゴルフをしてお茶会。それから読書会があってディナーよ』

『凄い、盛りだくさんですね』

 予定表を渡され、直美が驚く。

『今日はね、おふたりを私と交流のある方々に紹介しようと思って予定を詰め込んでいるのよ。明日以降は、一緒に何をして過ごすか相談して楽しみましょうね』

『はい』


 ~~*~~


 船での二日目は、王女のまわりの人達や、交流を持つ人達の事を把握し覚えるのに大変であっという間に時間が過ぎた。

 船の上ではのんびり過ごすものだと思っていた直美だが、常にいろんなイベントがあるし、お茶会や食事会などがあり忙しいぐらいだと知った。


 そして、もしこれが陸の上だったら、警護も本当に大変だったろうと真面目に仕事の事も少しは考えている直美だった。


 直美とベスはすぐに打ち解け、若くて可愛いふたりは3日目には船員や他の客たちのアイドル的存在になっていた。

 良平は良平で、可愛い直美の夫ということで、男達には羨ましがられ、おば様達からは、自分達の息子より若くて可愛いと、世話をやかれまくっている。


 ~~*~~



「相変わらずだな、良平」

 バーテンダーに扮している佐々木が、夜中に一人で飲みに来た良平に言う。

「おば様たちを、うまく騙しているらしいじゃないか」

「うるさいな……ロック、はやく作ってよ」

「はい、はい」

 佐々木は作った酒を、カウンターに座る良平に差し出す。


 良平は風呂に入り終わった後、一杯飲んでくると直美に告げ、佐々木の居るバーに来た。

 この時間、さすがに客は少なく、テーブル席でゲームを楽しみながら飲んでいる客が数人居るだけだ。


 煙草が無料で提供されていて、スタッフに進められたので良平も喫ってみる。なかなかいい香りがした。


「あ、そういえば、お前は随分激しいんだってな?」

 佐々木が何かを思い出したように言う。

「?」

 佐々木の不思議な質問に良平が顔を上げた。


「夜、直美ちゃんがサドとか叫ぶ声がすごいらしいじゃん?」

「! ……ばっ! 誰だよ、そんなデマを流す馬鹿は!」

「デマ? 言い触らしているのは、お前の子分だけど……原田も坂本も祠堂さんも、否定はしなかったぜ?」

「あンのやろぅ……殴ってやる……」

 怒りに振るえながら良平が言う。佐々木は面白そうに笑った。


「教育大変だな。あの坊主、仕事は出来るけどこの業界の常識っていうかモラルにいま一つ欠けるようなところがあって……まあ、最近の若い奴って感じ?」

「本当に、あいつ、あの南の孫とは思えない」

 佐々木の言葉に同意して良平が言う。

「ああ、まあ、まだ若いし。お前らの声聞かされて、たまんねーんじゃないの?」


「だから……違うって」

 良平は眉を上げて佐々木の言葉を否定した。

「何が違うんだ?」

 佐々木が不思議そうに聞く。

 良平はちょっと悩んでから答えた。

「俺ら、ベッドの争奪戦やってるんですよ……」


「は?」

 驚きのあまり佐々木の手が止まる。


「まあ……最初から俺が勝てるわけは無いんだけどさ」

 大きなため息をつきながら良平が言う。


「…………お前……」

 佐々木は同情するような表情で良平を見た。


「……まあ、飲め……奢ってやるよ……」

 佐々木はそう言い、良平のグラスにウィスキーを足した。


 ~~*~~



 良平が部屋に戻ると直美は既に眠っていた。

 良平は直美の寝顔を見つめながら上着を脱ぎ、Yシャツを脱ぎ、ズボンを脱ぐ。そしてそのまま、そっとベッドに潜り込む。


 ベッドの中で良平は、じっと直美の方をみる。

 直美は良平とは逆側に体を向けていた。

 良平の神経が徐々に研ぎ澄まされ、直美の香を感じると、体に触れずにはいられない。


 良平は少しだけ葛藤した。

 触りたい……怒るかな?


 考えがまとまらないうちに、良平は直美の腰に手を伸ばしていた。


 はあと、大きく息をし、良平は上半身を起こし、直美の体を隠しているシーツをよけた。


 良平は直美の腰のくびれにもう一度手を伸ばし、目は胸元を見つめる。

 

「ん……」

 直美が不快そうな声を上げた。

 ビクンッとして良平の手が止まる。


 良平は直美の様子を窺うように直美の顔を見つめる。

 直美は不快そうな顔で眠っている。


 「……」


 良平は黙って手を引っ込め、ソファーに行くとため息をついて横になった。

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