第13話 どっちがついで?

「そんなこと……気にならないよ」

 良平は直美の髪に触れながら言う。


「私は気にする……恥ずかしいからやめて……」

「今更だな。どろどろの状態で俺の腕の中で眠ってたくせに。可愛くしがみついていたじゃないか……俺に」

 良平が意地悪く微笑んだ。直美は真っ赤になる。


 だって……

 すごく寒かったから……


 直美は口に出さず、頭でそう考えながらも心臓がドキドキするのを止められなかった。


 良平の顔から笑みが消え、真面目な表情になる。そして良平の手が直美の頬に伸びてきた。


 直美は動くことが出来ずに、じっと良平の顔をみつめる。

 ふたりはお互いの目を見つめ合った。


「お前を温めている間、結構理性を保つの大変だったんだぜ。褒めてくれよ……」

 良平の顔は微笑んでいない。良平は直美のひとみを見つめたままで、指を直美の唇に持っていき、直美の唇に触れた。


「……キスぐらいいいだろ?」

 そう言いうと、良平は顔を寄せて直美の唇に唇を重ねる。


 直美が離れようと腕を動かしたが、良平がその腕を掴んで自由を奪う。

 直美はあきらめたように目を閉じ、じっとした。


 しばらくして良平は顔を上げたが、その顔は妙にセクシーだった。

 艶っぽい瞳で直美を見つめ、つぶやくように言う。


「……やばい、むちゃくちゃ抱きたくなってきた」


 その言葉を聞いた途端、直美の身体がカッと熱くなり、直美は反射的に良平の頬を叩いていた。


「いたっ!」


 ひるんだ良平の胸を叩くようにして直美は良平をどかせる。


「痛いなぁ、……お前本当に力強すぎ。可愛くねーぞ」

「うるさい! この野獣!」


 直美が真っ赤になってそう言うのを見て、良平は微笑みながら自分の座席に体を戻し、そのまま倒した座席に寝転んだ。


「手……」

 良平がぶっきらぼうに言った。

 直美は何のことか分からないで良平のほうを見る。


 良平は手を直美の方に差し出していた。


 直美はドキンとする。


 もしかして、手をつなぎたいって言っているの?


「はやく……」

 出した手を振りながら、拗ねた様な声で良平が言った。

 良平はまるで駄々っ子のようだと、直美は少し可笑しくなる。


 直美が良平の方に手を伸ばすと良平は直美の手をとり、しっかりと指を絡ませるように握り締めた。


 手をつなぎたいなんて、子供みたい。

 ……良平って、もしかして本当に私のこと好きなのかしら?


 直美は自分の胸が高鳴るの感じながらそう思った。


 

 どのぐらい時間が経っただろうか、直美はうとうとしていたが、急に手のぬくもりがなくなり、良平が動く気配を感て目が覚めた。


 車の外に、優や勉達の姿が見えた。



 ~~*~~


 直美はシャワーを浴び、ようやくすっきりとしたようだった。

 良平もソファーに座り、炭酸水を飲みながらくつろいでいる。


 優は良平から少し離れたソファーに座り、吉良のエージェントたちとなにやら相談しあっていた。


 浴室から出て来た直美は迷わず良平の横に座る。

 良平は直美の姿を見て、直美の為に用意していたグラスに冷えた炭酸を注ぎ渡す。

 直美はそれを受け取り口をつけた。


「ふたりとも……ちょっといいか?」

 優がふたりの元にやってきた。

 良平と直美は優を見上げる。


「何人か……見知った殺し屋とは話をつけたが、みさかいなく襲ってきている素人のようなやつらとはコンタクトがとれていない」


「まだ危険ってこと?」

 直美が聞くと優が頷き、そしてまた話し出す。


「だが、ふたりとも今は居所を特定できる物を持っていないから、そういう連中がお前たちに手を出すのは難しくなっているはずだ。吉良の警護もついたしな……あ、良平」

 声を掛けられ、良平は「ん?」という顔になる。


「南さんから連絡があった。今、北海道らしいな。すぐこっちに戻って来るとは言っていたが、とにかく若を頼むと言って心配していたぞ」

「すみません、南は心配性なんです……」

 良平は申し訳なさそうな顔で頭を下げた。


 優は少し冷たい視線を良平に向ける。


「……お前が直美を惚れさせてなきゃ……お前なんか放っておけるのに……」

 優はいつもより低い声で呟くように言った。


 その言葉に直美が反応する。

「へ、変なこと言わないでよ! 誰が惚れてるって言うのよっ」

 直美が抗議するように言った。


「何言っているんだ。あれほど、こいつを殺してでも傍を離れろって言っているのに……」

「そんなこと……、見捨てて死なれちゃ目覚めが悪いじゃないの」

「目覚めが悪いのも惚れているからだろ? 前にも言ったが、こいつは女を扱わせたら右に出るものはいない男なんだからな……」

 優がそう言うと直美がぷくっとむくれる。


 良平は優の言葉に苦笑しながら、墓穴を掘らないように何も言わずに黙っていた。


 むくれる直美を見ながら優は話を続ける。

「とにかく、いつまでもバカ共に付き合っていられるほど俺たちは暇じゃない」

「どうするの?」

 優の言い方に、何か考えているのだと確信して直美が聞く。


「前に親父が言っていただろ、豪華客船での警備の話し。その客船が明日、舞鶴に寄港するらしい。本当は横浜から合流する予定にしてたが、すぐに警護を開始してほしいと依頼があったんだ」

 良平と直美が同時に、え? と声を出した。

「警護の仕事だろ? 危険増やすのはどうなんだ?」

 良平が驚いて言う。


「この警護の仕事には俺や佐々木を含め、吉良3Sの精鋭が参加することになった。だからバックアップは完璧だ。閉鎖空間で警護自体はやりやすいから、お前達を守るに、客を警護すれば一石二鳥だろ?」

 優がなんでもない事だと言うように言った。


 客の警護の方が

 俺たちの警護が客の警護のついでじゃなく??


 良平と直美は苦笑するように顔を見合わせる。


 優のシスコンぶりは相変わらずのようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る