第12話 車で逃げる
昼過ぎになって3人は公園の駐車場に車を停め、コンビニで買ったパンを食べながら、今後について打ち合わせる。
3人とも交代で睡眠をとったので元気だ。
「お嬢さんはこのまま電車に乗って帰られたほうがいい。お嬢さんひとりなら狙われることもないだろうし」
勉は直美を見ながら言う。
「嫌!」
直美はきっぱりと言った。
良平は昨日から意思の変わっていない直美を見て少し微笑む。
ふたりの様子を見て勉は少し呆れ顔になる。
「手間のかかるご主人様たちだぜ、まったく」
そう言いながら少し思案顔になったが、すぐ外の景色に目をやりながら口を開いた。
「俺がつなぎを取ります。とりあえず吉良3Sの手を借りるべき状況ですから。えっと……お嬢さん、何か俺が吉良に信用してもらう方法はありますか?」
~~*~~
勉が吉良の屋敷の前に立った途端、周りを男達に囲まれ、あっという間に自由を奪われた。
そして、屋敷の中に連れ去られるようにササッと中に連れていかれる。
何か言う間もなく、あっという間に屋敷の中に引き込まれた勉は、連れていかれた部屋で膝を付いて座らされた。
勉は焦って必死で訴える。
「ちょっと、……待ってください。俺は南の孫で……」
勉から口から出た南という言葉で皆は押さえつけている手を緩めた。
~~*~~
「おう、そのようだな。……こいつは良平の側近の一人だ。まだ半人前だけどな」
吉良は勉を見てそう言った。
勉は吉良を見て少し緊張気味のようだ。吉良に頭を下げる。
「ど……どうも」
「良平のボディーガードがこんな所に居ていいのか? あいつは今、大変だろう?」
いつもの口調で吉良が言う。
「ええ、だから来たんです。……さっきまで若と、こちらのお嬢さんと一緒にいました」
勉のその言葉に皆が反応した。
「お嬢は無事か!?」
今回の件を乗り切るために召集された、気の荒い男たちが声を上げる。
「え? ええ、今のところは無事です」
男達の勢いに少し驚いて勉が答えた。
「直美は、まだ良平と一緒にいるのか?」
優がイライラした口調で言う。
「ええ。お嬢さんは帰るのが嫌みたいですね」
「なにぃ」
勉の言い方が悪かったようで、いかつい男たちが一斉に勉を睨む。
「い、いや、うちの若が心配で離れられないと、お嬢さんはそう言ってくださっているんです」
勉は焦って言い訳するように言った。
「で? 今ふたりは?」
吉良が口元に笑みを浮かべながら聞いた。
「車で都内をまわっています。お嬢さんのスマホも全部捨てたし、多分今は居所を追われる手段がないはずなので、しばらくは大丈夫だと思います」
「そうか。……よし、優、案内してもらって二人をすぐ保護だ」
「はい」
~~*~~
良平はぐるぐる都内の道を周っていたが、公園の駐車場に入り車を停めた。
勉と約束した時間が近づいているからだ。
「大丈夫かな、あいつ……」
ハンドルに手を乗せたままで良平がつぶやくように言う。
「大丈夫よ。あの子の顔は家の連中も何人かが知っているし……」
助手席の直美が答えるように言った。
「ならいいけどな」
「まだ少し時間あるわね。もうひとまわりするなら運転かわるわよ?」
「いや、……もうここでまとうぜ」
「わかった」
「大丈夫か?」
しばらくぼーっとしていたが、突然良平が直美に向かって声を掛けた。
直美はきょとんとした顔を良平に向ける。
「海でおぼれかけたろ? 海水、結構飲んでいたし……。体、おかしくないか?」
「うん、今のところ、何ともない……」
直美は海での辛さを思い出しながら答えた。
「風呂、入りたいよな。……お前の髪もごわごわになってるぞ」
良平はそう言いながら直美の髪にさわる。
「うん。……体が磯臭いし、塩ふいてる気がする。でも……服だけは調達してもらえたから、まあ、なんとか平気だよ」
「そうか……」
「ごめんね、良平」
「ん?」
「泳げない私を抱えて大変だったでしょ?」
「まあな」
良平の言葉で、直美はますますしおらしくなる。
「本当に、足手まといだよね……」
「ばーか。お前はちゃんと役に立ってくれてるって言ってるだろ? それに……お前一人ぐらい俺が守ってやるし」
良平はそう言いながら微笑む。そして直美の頬にふれた。
「まあ、でも……泳ぎは、はやいこと覚えなきゃな……」
「ほんと……良平といるといつも海に飛び込むはめになるわ」
直美が笑いながら言うと良平も笑う。
「たしかにな」
身体をやすめる為に良平は座席を倒した。
「そっちも倒してやろうか?」
良平は直美のほうを見て言う。
「え? いいよこのままで」
「楽だぜ? 倒したら?」
そう言い、良平は手を伸ばし、がたんと助手席の座席を倒す。
そしてそのまま直美に覆いかぶさるように上半身を直美に向けた。
「ちょ……」
直美は驚いて良平をどかそうと腕で押す。
「なに怯えてるだよ……」
そう言いながら良平は微笑み、そして更に直美の上に覆いかぶさるように身を直美の方に寄せた。
「……こんな場所で何か出来るわけないだろ?」
言ってる事とやってる事が違うじゃない!
そんな風に考えながら直美は顔を赤くする。
「なら、どきなさいよ!」
「言われなくてもすぐどくよ……」
そう言いながらも、良平はそのまま直美の顔を見下ろし、髪に触れる。
良平の表情を読み取ろうと直美は良平の顔を見た。良平はいつもと違い、やわらかい表情で直美を見つめている。
「ご……ごわごわしてるし、塩くさいし……触らないでよ……」
良平が直美の髪をつかんで自分の口元に持っていくのを見て直美が赤くなりながら言った。
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