第9話 公開されている居場所

「お嬢の車の位置が動きはじめました!」

 車の中でGPSの位置情報を確認しているエージェントが言う。


「すごいスピードで動いてる……これは……殺し屋から逃げているんじゃないですかね」


「ちくしょう、殺し屋のひとりに見つかったってことか……」

 優が言う。


「おかしくないですか? お嬢の車ですよ? そんな簡単にみつかりますかね?」

「もしかして、場所を特定できる何かがあるんじゃないですかね?」

エージェント達が顔を見合わせて言う。


「良平の携帯か何かだな……あいつ、自分を狙っているのが身内だと分かっているだろうか? 携帯だとか使い続けてたら監視されないわけがないのに……」

 優は眉を上げながら言う。


「とにかく急ごう! 早く直美を保護しないと!」


 ~~*~~


「まいたか?」

 良平は前を必死で見て運転しながら言う。

「ええ……たぶんね」

「よかった」

 良平は、ほっとする。


「良平、止めてほしい……」

 直美は真っ青な顔をして言った。

 

 良平はすぐに車を停められる広い場所を見つけて車をとめた。

 直美は車が止まるとすぐに車を降りて崖側の雑草が茂っているエリアに走って行く。

 

 良平の方はゆっくりと車を降りて直美の傍に行き声をかけた。

「大丈夫か?」

「うん……」

 直美の青い顔をみて、良平は直美の背中をさすってやる。


「ごめんね、良平」

「え? 何を謝っているんだ?」

「だって、足手まといになってる……」

「足手まとい? 何を言ってる? 俺は凄く助かっているぞ。車酔いぐらいで、いちいち気にするな」

「でもこのぐらいで酔うなんて……それにもし格闘になったらなんの力にもなれないし」

「仕方ないだろ? 車酔いなんて体調によっては誰にでもあることだし。……それにな、みんなが同じことを同じレベルで出来てもしかたないんだぜ」

「え?」


「俺には俺の得意なこと、お前にはお前の得意な事があるんだから、それでお互い助け合えばいいんだよ」


 直美は良平の顔を見た。良平は直美の目を見て続ける。


「だから、そうやっていちいち出来ない事、不得意な事に劣等感を持つことはないんだよ。大体、マンションから出られたのはお前のおかげじゃん? ちょっとしたことかもしれないけど、そのちょっとしたお前の機転で俺はすごく助かってたりするんだから。お前はいつも劣等感を持っているけど、もっと自信をもっていい。お前はちゃんと役にたっているよ」


「うん……」

 直美は視線を外し、恥ずかしそうに頷いた。



 ~~*~~


 良平と直美の乗った車は街に戻った。

 しばらく大きな道を走っていたが、道路沿いにある観光客が多く宿泊している大きなホテルに入る。


「こういうホテルのほうが、人の出入りも多くて目立たないし、他人の目も多くて安全だからな」

 ホテルの入り口に向かいながら良平が言う。

「うん」

 良平の少し後ろを歩く直美がうなずく。


「もう車酔いは大丈夫か?」

 良平は少し振り返り、直美の顔色を確認しながら聞く。


「うん、大分ましになった」

「じゃあ、飯は食えるか?」

「うん。お腹はそれなりにすいてる」

 

 直美の返事を聞き、良平は微笑む。

「よし、なんか食いながらここで優さんを待とう」

「うん、そうね」


 ふたりはホテルのイタリアンレストランを選んで入った。

 わりとカジュアルな感じのレストランだったからだ。


 ふたりはメニューを見てピザとパスタをシェアすることにして、種類を選んで頼む。

 

 それほど待たされず、料理が運ばれてきて、ふたりは食べ始めた。


 食事がはじまってすぐ良平の携帯が鳴り、良平は少し周りに気を使いながら電話に出る。

 電話の相手は勉だ。


 ”あ! お前、もしかして今BIホテルか?”

 電話がつながった途端に勉が叫ぶように質問してきた。


「ああ、そうだけど……なんで?」


 ”すぐ逃げろ! お前、ネットで居場所を公開されているぞ!”


「!」

 良平は驚き、周りに注意を払う。


 ”電話は捨てたほうがいい! 他にも怪しいものがあれば全部捨てろ!”


「ああ、分かった!」


 ”クルーザはいつでも使えるようにしておく。明日の朝には、じいちゃんが帰ってくるから、それまではクルーザに隠れていてくれ! 俺も今から向かう!”


「ああ。サンキューな、勉」

 良平は電話を切った。

 直美が不安そうな顔で良平を見ている。

「何? どうしたの?」

「俺の居場所はネットで公開されているらしい」

「!」

 直美は驚きそして立ち上がる。

「すぐ出ましょう!」


「いや……まて。お前はここに残れ」

 え? という表情を直美が見せる。


「お前をこれ以上危ない目にあわせられない。ここで優さんを待て」


「嫌っ!」

 直美は大きな声で叫ぶように言った。


 今度は良平が驚いて直美を見る。レストランの他の客も直美の方を思わず見てしまう程の声だ。


「一緒に行くに決まってるでしょ! さっき私は役に立ってるって言ってたじゃないの!」

 そう言うとすぐに、直美はレストランの入り口に向けて足を動かした。

 良平は一瞬驚いた顔になったが、すぐに微笑み直美の後を追った。



 ふたりがレストランを出てホテルのロビーから外に抜けようと歩いていると、いきなりナイフを持った男が飛び出してきた。

「!」

 良平はかろうじてそれをかわす。

 周りにいた客が驚き、何人かが悲鳴をあげた。


「良平っ!」

 直美が良平を心配して声をあげる。

「大丈夫だ、少し下がっていろ」

 良平はナイフをもつ男から視線を外さず言った。


 突然ナイフをもった男が現れ、客やホテルのスタッフはどうすればよいかオロオロしながらも災難にあわないようにと、ソファーに座っていた者は腰を上げ、立っている者もすぐに逃げられるように少しずつナイフを持つ男から離れようと動く。


「あぶない!」

 客の男性の一人が叫ぶ。

 ナイフを持った男が勢いよく良平に向かってナイフを振りかざした。

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