第7話 殺人依頼サイト(2)
「ちょっと……これって……」
横からパソコンを覗き込んだ直美が声を上げた。
依頼No.XXXXXX
早瀬の残党 死神
以下の期限内に殺せたら200万ドル
2月5~15日の10日間
注意)期間外での暗殺は無効。
「これ、今日からじゃない……」
「やばいな……ここはダメだ、すぐに出よう」
~~*~~
内閣調査室に勤める吉良守が、兄の住む吉良の本宅に飛んできた。
守は、吉良3Sの元締めである吉良隆男の弟だ。兄が吉良家を継ぐのが分かっていた守は、学業に専念して外務省の官僚となり、その後、諜報活動を取り仕切る内閣調査室の部署にスカウトされて移った。
今では、政府と実家である吉良家とのパイプ役をうまくこなしていた。
守は、ゆったりと椅子に座って本を読んでいた兄の吉良に、良平に殺人容疑がかかっていることと、殺人依頼サイトに良平の名前が載って、ターゲットになっていることを伝えた。
「一体、どうなっているんだ」
話を聞いた吉良がイライラしたように言う。
「あの馬鹿、女を抱いた後、気まぐれで殺したのかもしれない」
守が不安そうな顔で言った。
「まさか、あいつはそんなバカじゃない……誰かに、はめられたのかもしれないな」
吉良は弟の守の顔を見て言う。
「はめられるのも、バカだからですよ」
そう言ったのは優だ。優の声には少し怒りの色が入っている。
優は立ち上がり、言った。
「……直美がどこにいるか探します。まさかと思うが、あのバカといたら事だ」
「もし一緒に居たらどうする気だ?」
吉良が聞く。
「決まっているでしょう? あの馬鹿を殺して、直美を連れ戻しますよ」
優が迷いの無いきっぱりした声でそう言うと、吉良は苦笑する。
「おいおい、冗談に聞こえないぞ」
「冗談な訳ないでしょ? 俺は本気ですよ。あのバカは直美に手を出しておきながらすぐ別の女にまで手を出して……」
優の言葉を聞いて、守が何かを思い出したように「あ」と声を上げた。
「先ずは警察に手をまわさないと……良平の免許証やクレジットカードが女の鞄から出たんだ」
守の言葉を聞き、吉良と優が守をみた。
「あいつの免許証とクレジットカードだと?」
吉良が眉を上げて聞く。
「ああ。身分証明書もあって、それで身元がバレた。もっとも警察は、良平を外務省の職員だと思っているけどね」
守がそう言うと、吉良と優が大きくため息をついた。
「あほう、それは盗られたんだよ、その女に」
吉良が言う。
「でも、ホテルの支払いは女が支払ったらしいぞ」
守が言う。
「女が支払った?」
吉良と優はまた守を見る。
「ああ。内調がエージェントに配っているカードがあるだろ? あれを使って支払いがされていた。あれなら誰でも使えるし、誰が使ったかも分からないからな。きっと良平が女に財布ごと渡して支払いをさせたんじゃないのか?」
守がそう言うと吉良と優は顔を見合わせた。それから再び守を見る。
「良平と宿泊した女と金を払った女は同一人物なのか?」
「ん? ホテルのフロント係からはそんなニュアンスで聞いているが……。特にそこを気にして調べたり確認はしてないなぁ」
「カメラは? 調べてないのか?」
「内調のカードが使われているので別格案件に指定されてるからな。公安が回収して内調に回されるはずだが、まだ届いてないと思うよ」
吉良は溜め息をついて優を見た。
「優、どう思う?」
「あいつが関係のない女に財布やカードを渡すわけない。多分、直美が迎えに行って直美が支払いをしたんでしょうね」
優は吉良を見ながら答えた。
「ああ。良平はホテルで女に薬でも盛られたか……何かしらのトラブルがあって財布を盗られて困って直美を呼んだんだろう。まったく……ほんとうに手のかかる婿だ。次から次へと問題を持ち込んでくれる」
吉良は、また大きなため息をつく。そして部下の方を向いた。
「誰か被害届を出しておいてやれ」
部下にそう言ってから、守の方を見る。
「女が殺された件については、良平は単なる被害者で無関係という方向で処理するように動いてくれ。実際、関係ないと思うぞ」
守は頷く。
「ああ、わかった……でもなぜ女は殺されたんだろう?」
「さあな、良平の仲間と思って殺し屋に殺されたのか、全然別の事で殺されたのか……今はわからん。巻き込まれたなら可哀そうだが、自業自得でもあるしどうしようもないな」
吉良がそう言うと守がため息をつく。
「わかった。この件は深く調査させずに、お宮入りさせる処理ってことで、了解した」
「うちのチームはふたりの捜索を開始します」
優がそう言うと、吉良が「ああ」と答える。
「あ、優」
部屋を出ようとした優に吉良は声をかけ止めた。
優が振り返る。
「今回は複数の殺し屋を相手にする可能性が高い。お前も十分気をつけろよ」
吉良がそう言うと、優は微笑む。
「ええ、わかっています」
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