第5話 良平、泥棒にひっかかる(2)
それなりのランクのホテルに入り、ルームサービスでシャンパンを頼んだ。
「あなた仕事はなにしてるの?」
女が良平に聞く。
「こんないいホテルに連れて来てくれるとは思わなかったわ」
「まずいシャンパンは飲みたくないだろ? 君は何してる人? 遊び慣れているみたいだけど」
良平は上着を脱いでハンガーにかけながら言う。
「看護婦よ。……ストレスたまるからたまにこんな風に遊ぶのよ。あなたは?」
「ふうん。俺は公務員だよ」
そういいながら良平は女の真正面に立ち、女の腰をとる。
「ふふ、エリートさんのようね」
女は良平の首に腕をまわした。
ふたりはそのまま熱くキスを交わす。
「随分、積極的だな……」
唇を放し、
「だって……あなたすごい男前だもの」
「そりゃあどうも、きみもかなり美人だよ」
そう言いながら良平は女のうなじにキスする。
「……だめよ、もうちょっと待ってルームサービスがくるから」
女はそう言い、するりと良平の腕から逃げる。
良平は少し残念そうな表情をするが、無理に追いかけてる事はせずにベッドに腰を下ろした。
女はニコニコしながらホテルの案内を見始める。
ドアベルが鳴り、ルームサービスが来た。
メイドがテーブルに頼んだ物を並べ、そしてすぐに部屋を出て行く。
良平はふたつのグラスにシャンパンを注ぎ、ひとつを女に渡した。
ふたりはカチンとグラスを合わせてからシャンパンを飲む。
「ん、美味しい! 良く冷えてるわ」
女は嬉しそうだ。良平は女のグラスにシャンパンを継ぎ足してやる。
女はフルーツに手を伸ばし、それを食べた。
「今夜はいい夜になりそうだわ」
「それはよかった」
良平は女の方に近付く。
それから女の手からグラスをとり、テーブルに置くと女を抱きしめた。
それからキスし、女の服のボタンに手をかける。
「ちょっとまって」
女が良平の手を止める。
「じらすんだな……」
「そういうわけじゃないわよ、でもシャワー浴びないと」
「じゃあ、いっしょに浴びようぜ……体洗ってやるよ」
「うん、じゃあ先に行っててくれる?」
「嫌だ」
良平は女の体を抱きしめて言う。
「焦らないで、今日は勝負下着じゃないから見られたくないのよ。ね? お願い」
「わかったよ」
良平はため息をつき、一歩先に浴室に向かう。
女は良平の姿が消えた事を確認し、素早く自分の小さなバックから目薬のようなものを取り出す。薬のようだ。
女はそれの蓋をあけ、とぽとぽと何滴か良平のグラスに入れた。
それからささっと服を脱ぎ、タオルを巻いて浴室に向かった。
ふたりはシャワーの後、体を拭いてすぐベッドに入った。
女は良平の腕の中で何度も甘い声をだす。
良平も女の柔らかい体を夢中で楽しんだ。
お互い十分に満足した後、女がシャンパンのグラスを持って来た。
ふたりはまたグラスを合わせた後、中身を一気に飲み干した。
~~*~~
頭が重い……
良平はなかなか目が開けられなかった。
くそ……なんか変だ……
そう思いながら寝返りをし、良平は重い体をなんとか起こし時計を見た。
時計を見ると9時を過ぎている。
女は明け方に帰ったのだろう、既に女の気配は無かった。
はあ……調子にのって飲み過ぎたか?
そう思いながらパンツを掴んではいた。
「頭いてぇ……」
あまりにも辛く、無意識に口から言葉がでていた。
ベットから立ち上がり、あくびしながら洗面所に行き顔を洗い歯も磨きさっぱりしてから寝室に戻ってソファーに置いてるシャツを着る。
それから洗面所に戻って鏡を見ながら髪の毛を整えた。
身支度が終わってから、軽く部屋を見回し、何も残っていないことを確認してからクローゼットから上着をとって袖を通した。
「…………」
袖を通したところで、良平はいつもと違う違和感を感じ動きを止める。
良平ははっとし、それから慌ててポケットを探った。
ない! 財布がない!
「……やられた……」
良平は大きなため息をついた。
~~*~~
「はい。吉良でございます」
直美がよそ行きの声で電話に出た。
「あー、……直美?」
良平の声だ。直美は少し微笑む。
「良平? おはよう」
「おはよう。……えっと、優さんいる?」
「お兄ちゃん? パパと仕事で出てるけど?」
「……なら……祠堂さんは?」
「祠堂も出かけているわ。今は、私と若いSPしかいないわよ」
「……まいったな」
電話の向こうで良平がため息をついたのが分かった。
「なに? どうしたの?」
~~*~~
ホテルの入り口のドアから直美が現れた。
その姿を見てフロントのソファーに座っていた良平が立ち上がる。
「悪いな……」
良平がそう言うと、直美はブスッとした顔で何も言わずにフロントに行く。
「25万3千円です」
金額を聞き、直美は財布からお金を出そうとしていた手を止めた。
直美はゆっくりと良平の方に顔を向け、ぎろりと良平を睨む。
それから直美は財布のカード入れの方を開け、いくつもあるカードを選ぶように見て少し考えてからカードを一枚引き抜いた。
清算を終え、二人はホテルを出る。
「ごめんな……」
良平はホテルを出てからもう一度、直美に言う。
「どんなに可愛い子だったわけ?」
直美は良平に顔を向けることなく車を止めた駐車場まで歩きながら聞く。
「え?」
「25万って……ブティックで一体何を買ってあげたの?」
「お、俺は何も買ってない。勝手に使われたんだよ」
「ふうん……勝手にねぇ」
「いや、ホントだって。店員に嫁だとかなんとか言って部屋につけさせたんじゃないかな? 部屋のキーはカードで人数分発行されてるしさ、カード見せれば部屋につけれるじゃん」
良平は焦っているのか、いつもより言い訳が長い。
直美は明細書を眺めた。
「シャンパンでのんきに乾杯して、薬盛られるなんて……相手は素人でしょ? プロとして、ちょっと恥ずかしいんじゃない?」
良平は何も言い返せず、苦い顔をする。
「……金返すから。今、借りてる賃貸マンションまで送ってくれるかな直美ちゃん」
「……」
直美は冷たい視線を良平に向けてから、グリーンのMINI COOPERの方に足を向けた。
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