序章 1-3

美咲はというと、上手くフリだけをしていた。何度か菜穂に両親や先生に相談しようと説得を試みたが、菜穂は頑なに首を横に振った。仕事で忙しい両親に心配をかけたくないのと、もし先生に相談したら、大学への進学に影響があるかもと思っていたからだ。担任の教師はクラスの異変に気付いていたが、見て見ぬふりをしていた。それに、菜穂と美咲の間には二人で決めた決まりごとがあった。虐めが始まった当日の放課後、諸事情で休んでいた美咲はラインで、「今から家に行ってもいい?」とメッセージを菜穂に送っていた。送ってすぐに既読が付き「いいよ」と返信がきた。美咲はライングループに上げられた写真の件で菜穂のことを心配していた。それに、春香から菜穂に対して虐めをするようと個別でメッセージが送られてきていたのだった。それも菜穂に伝えようと思っていた。「何があっても、菜穂を守る。」美咲は固く決意すると、ハンガーに掛かっていた、白色のパーカーを着て、スマホをパーカーのポケットに入れる。そして、足早に家を出た。息を切らしながら、菜穂の家に向かう。走って数十分後、ようやく菜穂の家の前に到着した。呼吸を整えて、インターホンを押す。しばらく待っていても、応答はなかった。再びインターホンを押す。すると、ラインの通知音がスマホからした。上着のポケットに閉まってあったスマホを取り出し、画面を見ると「開いてる」とメッセージがきていた。それを確認した美咲はポケットにスマホを閉まい、扉を開けて、玄関に入る。靴を脱ぎ、二階の菜穂の部屋に向かう。部屋に入ると、隅っこで膝を抱えている菜穂がいた。部屋の扉を閉める。その直後、菜穂が「これからは学校でお互い口を聞かないようにしよう。」と言ってきた。それを聞いた美咲は菜穂の方向に向かっていく。グッと菜穂の腕を引っ張る。帰ってきてからずっと泣いていたのか、目が充血していて、ほっぺたには涙の跡があった。でも、今はそんなことを気にしている余裕は美咲にはなかった。腕を強く掴み、目を鋭くし激昂した。「どうして、そんなことを言うの!親友が虐められているのを知っていて、それを見て見ぬふりをするなんて…。私にはできない…できっこないよ!菜穂…私たちは親友なんだがら…頼ってよ…。」美咲の目は潤んでいた。強く握られていたところが弱くなっていくのが分かった。

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