序章 1-2

「菜穂…」美咲は隣で泣いている菜穂に声をかける。「残りの一ヶ月、我慢すれば卒業できる。最後まで私が菜穂のことを支えるから。二人で乗り越えよう。この三年間、二人で頑張ってこれたんだから、一ヶ月くらいあっという間だよ。それに大学は他県だし、この町から離れられる。もう少しの辛抱だよ。」美咲はそう言うと菜穂の頭を優しく撫でた。「そうだね…」菜穂の声は弱々しかった。菜穂は高校に入学して間もない頃から、クラスメイト達に虐められるようになった。きっかけは、クラスのライングループに上げられた一枚の写真からだった。そこに貼られた写真は他校の男子生徒と菜穂が一緒に会話している写真だった。それに嫉妬したクラスの女子達が菜穂を虐め始めたのだ。その男子生徒は地元では有名な進学校に通っていて、一つ学年が上の先輩。身長が高く、爽やかな顔立ちをしている、サッカー部のキャプテン。成績も常に学校のトップクラスで、人望も厚く人気者だったからだ。誤解を解く為、菜穂は皆んなに「話しかけられて、少し会話をしてただけ。」と必死に弁明しようと努力した。事実、本当にそうだったからだ。だが、誰一人耳を傾けてくれる人はいなかった。というのもクラスのカーストトップに君臨する三上春香が菜穂を徹底に虐めろと、全員にラインを送っていたのだ。入学当初から春香は、絶対的強者の異彩を放っていた。見た目は髪が長く、茶色に染めていて、目は大きく、耳にはピアス、俗にいう不良の感じだったが、成績は抜群に良かった。それもあって、教師達は春香の外見について指摘することはなかった。それに、春香に逆らうと痛目にあう。そんな噂があり、従うしかなかったのだ。春香はその男子生徒に故意を寄せていた。だから、写真を送られてきたとき、菜穂に取られたと勘違いしてしまった。しかし、ある時、男子生徒と話す機会があり、そこで自分の勘違いだったと春香は気づいたが、菜穂への虐めは止めなかった。自身のプライドが許さなかったのだ。「自分の間違いだった。だから菜穂への虐めは終わり。」などと言えるわけもなかった。それに、周りからの春香の印象はプライドが高く傍若無人。そう見られていた。もし、自分が非を認めれば、今まで築き上げてきたものが、崩れてしまうかもしれない。そんな恐怖も、春香自身の中にあった。菜穂への虐めは、最初は下駄箱の上履きがゴミ捨て場に捨てられてたり、机に落書きがされていたり、軽度な虐めだった。だが、そこから段々とエスカーレトしていった。トイレに入っていると、上から水をかけられたり、昼食を教室で食べているとゴミ屑を入れられたり、放課後は人目のつかない場所に呼び出されて、蹴る、殴る、髪を引っ張るなどの暴力もされてきた。切りがないくらい、様々な虐めをされてきた。勿論、必死に抵抗した。だが、それは最初の方だけで、徐々に抵抗しなくなっていった。抵抗すれば、するほど、仕返しが酷くなっていくのが分かったからだ。今となっては、されるがままになっていた。早く終わってほしい。虐めをされる度に菜緒は思っていた。それに皆んなが飽きたら、直に収まるだろうと思っていたのだが、三年も続いた。江華女子高等学校は三年間クラス替えがなかったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る